1979年式コンチネンタルMk.V のエンジン、フォード400クリーブランドの修理です。
組み立てにあたり、再使用する部品の整備を行います。
古いクルマのエンジンを構成する部品たちは、一様にくたびれきっています。
経年が与えた影響を考慮し、現品を子細に観察して、再使用に相応しい状態に整える。
組上げたエンジンが所定の性能を発揮するために、この手間を惜しんではいけません。
バルブカバーには、錆びと歪みが認められます。
錆びはともかく、歪みはオイル漏れの原因になるので修正が必要です。
柔軟性を失ったコルクパッキン。ここからのオイル漏れを、バルブカバーボルトの増し締めによって止めることはできません。前の記事にあるように、部品同士の取付面を整え、パッキンを新品に交換し、カバーを規定トルクで締めればオイル漏れは治まります。
ヘッド側に貼りついたカバーを、コジって開けた形跡がありました。
ボルト穴まわりが富士山のように膨れてきているのは、不適切な増し締めの影響です。
薄板のプレス加工で成型された弁当箱のようなカバーです。
バール状の工具でコジられたら、ひとたまりもありません。
コルクパッキンの除去には、超硬のスクレイパーが重宝します。
不適切な整備による凹凸が無ければ、さらに効率的であることは言うまでもありません。
NOGAバーを使い、バルブカバーのボルト穴に残ったガスケット片とシーラントを除去。
金床のうえで、バルブカバーのフランジを最初の形状に戻します。
バルブカバーは完成時に目立つ部品なので、化粧直しをすることになりました。
エミッションコントロールのラベルは再入手不可能なので、ここだけを残して総剥離。プライマーとサフェーサーを吹いた上でブルーのペイントをやり直し、全体をクリアでコーティングします。
これは、配線配管類をクランプするタブたち。錆びて歪んで油で汚れています。
こんな小さなものまで鉄でちゃんと作るあたり、アメ車の失われた良心を感じます。
FTECでは、ボルトナットもなるべくオリジナルのものを再生して使います。
ヘッドボルトやコンロッドのキャップボルトなど、例外はいくつかありますけどね。
そんなもん新品に替えちゃえよ、という方がいることは分かっていますが、雄ねじが新品で雌ねじが中古という組み合わせでは、ボルトメーカーが謳うほどの性能は得られません。
ドレスアップが主目的で材質が疎かな商品もありますし、ARP等の一流メーカーのボルトでさえオリジナルと完全に同じプロフィールではありませんから。
【ご参考】 → ARP Bolt Set for FORD Cleveland
なにより、ねじ山を磨き観察することで得られる情報が貴重だと考えています。
折れずに抜けたボルトにも、ダメージはあります。 |
これは、汚れで良否判定ができない状態。 |
ボルトのアタマを磨いたのは、単純に美観のためです。
ブラシに当てる角度や方向を変えて、ねじ山が隈なく清掃されたことを確かめます。
「手回しで気持ちよく着座させられるボルト」をイメージして磨きます。
瑕疵のあるボルトを見つけたら、その理由について考察することが肝要です。
磨いてはじめて露見する瑕疵もあります。 |
このボルトは再使用不可。当然ですね。 |
洗浄槽で油汚れを洗い落とし、ステンレスのブラシで錆を除去。
圧縮エアーで残留物を払ったら、ねじ部の修正にかかります。
ボルトのねじ山に、ダイスをかけます。
これは、前の記事で機械仕上の面にオイルストーンをあてたのと同種の作業です。
ねじ山の状態を「手」と「目」で確認することが重要なのであって、「ねじ山を修正する」あるいは「鉄を刃物で切る」行為とは根本的に違います。
綺麗に見えても伸びているボルトは再使用できません。あたりまえですよね!
良品。ねじ山全体が、均等にクリーニングされています。 |
部位によっては、新品のボルトより再生したボルトの方が安心。 |
不具合を起こすまで順調に作動していたエンジンの、生産ラインで締め付けられてから一度も緩めたことがないボルトなら、十中八九再使用できます。
しかし、オーバートルクで締め付けられたり、水穴に貫通させられたボルトの中には、錆びて折れる物が現れます。また、不適切な整備によって再使用不可となる場合もあります。
もし冷却水を枯らして放置されたエンジンなら、再使用できるボルトは少ないでしょう。
水に浸かっている限り、鉄のボルトが錆びることはありませんから。
部品を磨くと、そのあたりの経緯も読みとることができます。
ダイスのスリットを狭めても・・・ |
素手でスルスルと回り、かつガタが無いねじ山が理想。 |
ボルトを「再使用に相応しい状態に仕上げる」とは、外見を綺麗にするだけでは断じてなく、道具と知恵を駆使して「これを使って組上げれば絶対に大丈夫」という確信を得るための作業です。
生産時とまったく同じボルトを手に入れるのは、国産車でも案外難しいこと。
形状、仕様、材質が違うボルトを混ぜて、本当に大丈夫か?よく考えましょう。
このリンカーンなら、今回はじめて緩めたボルトは40年近く機能していたことになります。
新品の「ちょっと違うボルト」は、なん年正しく機能できそうですか?
確信をもって即答できないなら、元のボルトを仕上げることの意義を見直してください。
かけた時間に見合った収穫が必ずあると、FTECは信じています。
※ つづく