埼玉県狭山市の自動車整備工場、FTECコーポレーションが、主に特殊整備にカテゴライズされる業務内容を紹介するブログです。

カマロのシャシーリフレッシュ3/5・再生

1973年式 シボレー・カマロ、通称「サメカマ」。
ゼネラルモータース(GM)Fプラットフォームの、第二世代モデル。
ポンティアックのファイヤーバード・トランザムと部品を共用しています。


前回の記事で分解したフロントサスペンションアームに新品のブッシュやボールジョイントを組付けて、シャシーリフレッシュと呼ぶに相応しい状態に仕上げます。

組付けにあたり、嵌合部とその周辺を清掃します。

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積年の油汚れで原型が分からないような状態では、アームのダメージを見落とす可能性があるからです。新しい部品と接触する面は、新品同様に準備されていなければなりません








点検が済んだら、簡単に防錆塗装を施します。




前回の記事でリベットを除去して取り外した、アッパーアームのボールジョイント。
新しいボールジョイントは、ボルトナットで結合します。




ボルト径のほうがリベット径より大きかったので、アームの穴径を拡大します。
必要最小限の加工にとどめ、位置が狂わないように配慮します。




続いて、ロアアームのボールジョイントを取り付けます。
ここは、塗装後にフラップホイールで嵌合面を仕上げます。

ロアアームのボールジョイントはアームに圧入して固定するのですが、塗膜が残っていると絶対に入りません。別の見方をすれば、塗膜が残っているのに入ってしまったら後々問題を引き起こす恐れがある、ということです。



ボールジョイントの圧入時に注す潤滑油で塗料が溶けて嵌合面に入り込む可能性があるので、嵌合部周りには余裕を持たせるよう、シャシーブラックを除去します。


ブッシュ側は、ブッシュのスリーブが外部に露出する構造なので、注油によって溶けた塗料が圧入の障害になるリスクは低いと言えます。したがって清掃は、嵌合面のみの最低限でOK。


アーム側の準備が整ったらアタッチメントを選び、専用工具でボールジョイントを圧入します。


アームに余計な力が加わらないよう細心の注意を払いつつ、インパクトレンチでゆっくりと。
途中で数回注油しながら、アーム先端のボアとボールジョイントの垂直を確認します。


ボールジョイントの圧入作業を動画で見ると、こんな感じです。

何度も繰り返しますが、アームは一枚ものの鉄板からプレス成型された柔らかい部品ですので、ボールジョイントに加わるべき圧力がアーム側に逃げると簡単に変形してしまい、狂ったアームとして完成してしまいます

これは悪魔的な失敗で、そのまま組み上がってしまうと発見は困難です。

車高やアライメントを調整して静的な数値を揃えても、実走における挙動の異常は取り除けません。サスペンションがストロークする度にタイヤとホイールが左右で違う動きをしていては、直進性が保てないのは当然だからです。

ここに紹介した以外にも、いくつか有効な圧入方法が存在します。
とにかく大切なのは、アームを変形させないこと。この一点に尽きます。


つづいて、ロアアームブッシュを圧入します。

ここはさらに変形しやすいので、アーム側のボアとブッシュの外径は厳密に管理します。
組んだら緩かった、なんてことになったら、抜本的な見直しを余儀なくされることは言うまでもありません。

治具がずれたりしていないか、何度も確認しながら静かに圧入します。





今度は、アッパーアーム( = コントロールアーム)のブッシュを圧入します。

ここはロアアームと違い、前後に貫通するシャフトを一緒に組付けます。
アーム側の嵌合面の仕上げは、ロアアームのそれと同じです。


↑ Before

↑ After

上が純正のロアアームインナーシャフト、下がこれから組付ける社外品のシャフトです。

純正のシャフトには裏表がありませんが、社外品のシャフトは取付面が軸心からずらされていることが解ります。これは、車体に装着後に裏表を組み変えることで簡単にキャンバー角を変更できる仕組みです。

サーキットまで自走してパドックでネガティブキャンバーを付け、帰りに元に戻すことも可能です。
ただし、フォーク状のシムを落としたり無くしたりしなければの話ですが!



取付面と軸心がずらされている様子。

ロアアーム同様に一枚板をプレス成型したアッパーアーム。
これに、前後のブッシュとそれらを貫通するシャフトをどうやって組むか?

FTECの解答は、以下の写真の通りです。

どんなやり方でも構いませんが、とにかく、アームを変形させないように。
遊びゼロで円滑にシャフトが回転することを素手で確認するのは、基本中の基本です。



ご覧いただいてお分かりのように、FTECは機能第一主義なので、ガレージの床に鏡を敷き詰めて恍惚としたいオーナーが期待するような外観にはしていません。時間、工数、費用、すべてのリソースを、ステアリングを握るオーナーが走りを通じて実感できる性能を高めることに注ぎたい、というのが本音です。

もちろん、それを実現したうえで美観に拘るのであれば、サスペンションアームならバンプラバー等も全て取外してサンドブラスターをかけ、ボディーパネル同様の塗装を施した後に組み立てることも可能でしょう。

その費用と時間を考慮すれば、アームそのものを抜本的に変更するという選択も視野に入ってくるはずです。GM F-Body のサスペンションアームは、構造の違う社外品を選ぶ事も可能です。


・ QA1 モータースポーツ → http://www.qa1.net/




・ SPC パフォーマンス → http://www.spcalignment.com/






どちらの製品も、純正品とは比較にならない強度と精度を兼ね備えています。
当然ですよね、本国ではスリックタイヤと13インチブレーキでレースをしているんですから。

しかし、日本の車検には通りません。

本国でこれらの部品を装着済みのクルマを輸入した場合は、そのまま車検に通ります。
おかしいんじゃないのと思った人は、力を合わせて法律を変えましょう。

次回は、リフレッシュしたアーム類を車体に取り付ける様子を記事にします。

【関連記事】

■ 73カマロのシャシーリフレッシュ

1・概要 → http://goo.gl/GgrTOA
2・分解 → http://goo.gl/3fnKP3

4・組付 → http://goo.gl/roVQtu
5・調整 → http://goo.gl/Vn1YYD