シボレー カマロ 1973年(昭和48年)式です。
フロントサスペンションアームから、ブッシュとボールジョイントを分離します。
前回の記事で車体から取外した、アッパーアームとロアアームを仔細に観察。
ラバーブッシュもボールジョイントも、新車の生産ラインで組みつけられたものです。
この時代のサスアームは、一枚ものの鉄板をプレス加工して成型しているので、走行中の負荷とは違う向きに力を加えると簡単に変形してしまいます。
不用意でジオメトリーが狂ったりフリクションが増したりしては、何のための整備だか分かりません。適切な工具と入念な段取りが、より良いクルマに仕上げる鍵だとFTECは考えています。
アッパーアーム( = コントロールアーム)から、ラバーブッシュを抜き取ります。
前述の通り、プレス加工による華奢な部品ですから、専用工具で静かに抜き取ることが肝要です。ここのブッシュをハンマーによる打撃で抜こうとすると、十中八九アームを変形させてしまうでしょう。
ブッシュとシャフトが抜けたら、ボールジョイントの交換に取り掛かります。
純正のボールジョイントは4本のリベットによってアームに取付けられているので、このリベットの頭( = ファクトリーヘッド)を削り落として、残りをピンポンチで打ち抜いて取外します。
ここもまた、過大な力を加えるとアームの先端が変形してサスペンション全体の機能を狂わせるので、慎重な作業が求められます。
こちらは、ロアアームのインナーブッシュ。
アッパーアームのそれより数段きつく嵌合している、手ごわいブッシュです。
ここも「ブッシュが圧入されている状態ではじめてアーム全体に必要な剛性を満足させられる構造」 なので、無理な力を加えると変形して取り返しのつかないことになります。
つかみどころのない形状なので、咬いものを介してバイスに甘噛みさせます。
ラバーブッシュの抜き方に、特別な決まりはありません。メーカーに尋ねても、「アームアッセンブリーで交換してください」と言われるだけです。事業所ごと作業者ごとに色々なやり方があるでしょうが、要するに再使用するアームを傷めずに新しいブッシュが組めればいいのです。
プレス加工品のロアアームを変形させずにブッシュを抜きます。
まず、古いブッシュを外側から加熱してスリーブとラバーを分離。
鉄のスリーブを熱すると境界のラバーが沸騰して、インナーコアだけを分離できます。鉄の組成が変わるような温度には達しないので、残ったスリーブを慎重に取り除けば、再使用するアームには殆ど力を加えることなくブッシュを抜き取ることができます。
ロアアームブッシュの外し方を動画でみると、こんな感じです。
文字と写真で思い描いたイメージと、よく照らし合わせてみてください。
左右のロアアームブッシュ、それぞれ前後4箇所を、同じ要領で分離。
残ったスリーブは、ハックソーで溝を刻んでからタガネで打ち抜きます。
スリーブの肉厚を読んでアームの穴ギリギリの深さに溝を刻むのが理想ですが、攻め過ぎてアームの穴側に傷をつけてしまうと、リカバリーは困難ですから気をつけましょう。
続いて、ロアアームのアウターボールジョイントを取外します。
ここのガタはハブベアリングの次に発生頻度が高いので、アームを車体に装着したまま交換することもあります。走行可能な状態のまま正確な点検をするのが難しい箇所でもあるので、ハブベアリングやタイロッドエンドとセットで交換すると良いでしょう。
ダストブーツがグリスに侵されてガム状に変質しています。
ニップルから給脂されたグリスがはみ出たところに積年の汚れが詰まって、凄い状態に。
ロアアーム本来の形状が分からなくなるほど、油汚れで塗り固められています。
ようやく、プレス加工されたアーム先端のディティールが明らかになってきました。
これはMOOG社製のボールジョイントで、新車時からの部品ではありません。
品質の良い部品を選んでくれた前の作業者に、感謝したい気持ちです。
ロアアームとボールジョイントの嵌合部。
詰まっていた汚れを除去できたら、浸透潤滑剤を注油して専用工具で抜き取ります。
べつに汎用工具でも構わないのですが、再三記述した通り、サスペンションアームはプレス加工品で容易に変形してしまうので、再使用に支障のない抜き方を選択しなければなりません。
ボールジョイントのはずし方を動画で見ると、こうなります。
アームを変形させる力を加えずに抜き取っていることが解ります。
下の写真は、今回のシャシーリフレッシュで交換する部品を俯瞰した様子です。
ブレーキディスクローター等、写真にない部品がいくつかありますが。
この写真にある部品はすべて、オーナーが自力で本国から取り寄せたものです。
これらの部品には一般的に消耗品として認知されているものとそうでないものがあるので、FTECのブログでは「似たようなアメ車に似たような情熱を注ぐオーナー」の参考になりそうな項目を選択して記事にします。
カマロ、トランザムなど GM(=ゼネラルモータース)F-Body のクルマは1960年代から90年代まで基本的に同じですから、これらのアメ車に興味をお持ちの多くの方々にお読み頂ければ幸いです。
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■ 73カマロのシャシーリフレッシュ
1・概要 → http://goo.gl/GgrTOA
3・再生 → http://goo.gl/bY5uUl
4・組付 → http://goo.gl/roVQtu
5・調整 → http://goo.gl/Vn1YYD