埼玉県狭山市の自動車整備工場、FTECコーポレーションが、主に特殊整備にカテゴライズされる業務内容を紹介するブログです。

ボルボのルーフライニング修理

ボルボ V50 です。
天井の内張り(= ルーフライニング)修理で入庫しました。


表面の生地が剥がれ、全体的に垂れ下がってくる。
ボルボに限らず、欧州車全般に起こりがちな不具合です。

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FTECでは、剥がれた生地をもう一度張り直すことはしません。そうしたクルマを見たこともありますが、一見してみすぼらしい雰囲気なので、別の生地に張替える作業だけを請負っています。

天井の張替えに先立ち、まずこのクルマの特徴をおさらいしましょう。


自動車メーカーとしてのボルボの乗員保護意識は、創業以来の筋金入り。
このV50にも、たくさんのエアバッグインフレーターが装備されています。

天井付近にはサイドカーテンエアバッグが仕込まれているので、ヘッドライナー(= ルーフライニング)を脱着する際には、サービスマニュアルに従って正しく養生することが欠かせません。



アシストグリップやドームランプ等、ルーフライニングを支えている天井付近の構成部品を順番に取外し、ライニングの裏面とルーフパネルとの間に接着されたワイヤーハーネスを剥がします。





一般的に、「ワゴンはセダンやクーペより作業域の確保が容易」と見做されています。しかし、角部の水平断面積で車体剛性を稼ぐ今日の車体設計では、最小限の開口部しか存在しないことも。

実際このV50も、前後に長いルーフライニングを痛めずに抜き取るのは工夫が要りました。
できるだけ長いスパンの緩い曲げで抜取れる方法を、先入観なしに探ることが肝要です。



斜めにすると、ラゲッジルームに張りだしているストラットタワーをクリアできない。
写真の位置から、左右両端を養生しつつルーフライニングのアーチを強めて抜取りました。

斜めにすると負荷過大で割れます。

ルーフライニング(= ヘッドライナー)が取外された天井の様子。天井の鋼板に黒いインシュレータ、左右の窓上部にカーテンエアバッグのインフレーターが見えます。


シートこそ外しませんでしたが、内装は広範にわたる分解が必須。
指一本分の隙間があるかないかが結果に関わるので、躊躇わず取外しましょう。




外したルーフライニングから垂れ下がった古い表皮を取り除き、必要に応じてそれに補修や補強を施し、再使用に耐えるよう乗員側の面を調整したうえでオーナーが選んだ新しい表皮を張りつける。

今回この作業は、ひばり工房 さんに外注しました。

カラーとテキスタイルのサンプルを使って、オーナーのイメージに合った生地を選択。ひばり工房の今井代表にはたくさん骨を折っていただき、心より感謝申し上げます。


内装の広範な分解と脱着。
そのついでに、エアコンのフィルター(= ポーレンフィルター)も交換します。

ボルボV50のエアコンフィルターは、ダッシュボード中央に仕込まれたHVACユニットのファイアウォール(= エンジンルームとの隔壁)寄りに配置されています。

その悪名は、ボルボディーラーのメカニックにもよく知られているようです。
3分かからずに交換できる車種もあるのに、P1プラットフォームのV50とS40は大分奥ですから。


グローブボックスを分解するだけで交換できると楽なんですが、V50はその下のヒューズボックスを取外す必要があります。その集中カプラーは、上面5箇所、下面3カ所。

バッテリーターミナルを開放し、ドアウエザーストリップやステップトリム、ダッシュボードロアの順序で分解していくと、エアコンフィルター(= ポーレンフィルター)が仕込まれているアクセスパネルの3本のスクリューが・・・

  一部 Σ(゚д゚;)

見えてきます()。

ダッシュロアにアクセス

ヒューズボードを展開

ヒューズボードAss'y 取り外し

赤→ +1本 が目的のスクリュー

ようやく見えたスクリューの下にもう一本隠れているので、その作業域確保のためヒューズボックスのマウントも取外します。




スクリュー3本が外れたら、フィルターのアクセスパネルを取り外し・・・


古いフィルターを引き抜きます。

これだけ作業性が悪いと頻繁には交換できないので、随分と汚れています。
整備履歴を厳格に管理して、快適な車室環境の維持に努めましょう。




ブロア付近に枯葉等の大きな異物が無いか確認して、新しいフィルターを挿入。



ディーラーオプションの配線も綺麗にまとめて、スッキリしました。


このような細かいルーティンメンテナンスを施しているうちに、外注先から再生されたルーフライニングが戻ってきました。剥がして直して張替えるまでの施工期間は、丁度1週間。
「薄くて脆くて大変だった」 そうですが、精一杯やってくれたので、その意気に応えましょう!


ルーフライニング後端部。純正新品は、これと同様の断面をしています。


一方、左右と前端部は、新たに貼り込んだ表面の生地を裏面に回り込ませて接着しています。この処理は、端部から再び剥がれはじめるリスクを遠ざける効果があるでしょう。

後端は樹脂製のトリムで覆われて端部が露出しないので、純正同様で問題ありません。



かくして、垂れ下がった天井の内張りを張替えることができました。

今回選択した生地は純正のそれよりも毛足の長い仕様ですが、色が純正然としているので一目で社外品とわかる人は稀でしょう。細かく比較すると、毛足が長い分モールディングのエッジがふわりと柔らかくなっていることが分かります。




耐久性の評価はこれからですが、純正部品より念入りな作業が施されていることは明らかなので、経年変化の様子を観察するのも一興とFTECは考えています。

「ボルボのある生活」に一層の愛着を持って頂けたら、それ以上の喜びはありません。

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さて、おまけの動画は、ボルボ V50 のTVコマーシャル。
日本で放映された記憶はありませんが、今見ても魅力的な三部作になっています。









正直V50より、運転している女性の方が強く印象に残るのですが。

一瞬しか映らない男性の個性が、何で表現されているかも見どころです。

質実剛健が売りのボルボには、ゴリ押しのアピールは要らないのかもしれませんね!