埼玉県狭山市の自動車整備工場、FTECコーポレーションが、主に特殊整備にカテゴライズされる業務内容を紹介するブログです。

ユーノス コスモの燃料タンク修理 3/3

ユーノスコスモ(1990年式)の、ガソリンタンク修理。
最終回は、POR-15 フュエルタンクシーラーによるコーティングの紹介です。


第一回で燃料タンクや付属品に発生したサビの状態を把握し、第二回でサビを落として化学的な性状を整えました。コーティングを施す鉄板は、

完全な乾燥状態であること

が必須条件です。

燃料タンクのコーティングに限らず、およそ「塗装」と呼ばれる仕事の出来は、下地次第です。
そして、旧車の燃料タンクは失敗したら替りの部品がありません。

何度も繰り返し書きますが、タンクシーラーを投入してから工程を遡ることはできません
サビ取りから乾燥までの下地の出来は、絶対の自信が持てるまで繰り返し確認しましょう。




POR-15 フュエルタンクシーラー

POR-15タンクシーラーは、96時間(4日間)をかけて硬化させます。

流動性があるうちに燃料タンク内の隅々まで行き渡らせ、余分なシーラーはすぐに排出。すべてのテーピング(マスキング)を剥がし、細いパイプやねじ山がシーラーで固まらないように、低圧のショップエアーで清掃します。

硬化の過程で塗膜内の気泡を表面に排出する特性があるので、タンク内部に熱風を送り込むなど表面を先に硬化させてしまうような真似は厳禁 です。



常温で96時間というのは、あくまでもPOR-15の取扱説明書にある目安です。

タンク内部の形状によっては、入り組んだバッフルプレートの隅などに、理想の塗膜よりも厚くシーラーが残った部分があるかもしれません。こうした箇所は無いのが理想なのですが、有った場合を考慮して作業工程を組むべきです。

FTECでは、コーティングの乾燥工程は最短でも1週間と見積っています。

燃料タンクをコーティングする最終工程を、今回も動画で撮影しました。タンクシーラーの流動性を理解することは、タンク内の隅々までシーラーを行き渡らせるために役立ちます。どうしても見えない箇所までシーラーで隈なく覆うには、作業者の想像力が重要ですから。



余談ですが、POR-15をボディーパネルに塗装して防錆処理をしている動画をネットで拾いました。この動画では、ドアパネルやハッチゲートに燃料タンクコーティングと同様の処理を施しています。

注目すべきは下地の状態。一旦ベアメタルに仕上げてからPOR-15指定のケミカルで下地処理をするのですが、下地の最終工程は水洗いと完全乾燥ですから、当然再び錆びが生じはじめます。

これは失敗ではなく、パネルとPOR-15の密着力が最高になるのは、わずかに錆が出始めた頃 だということを、理解している証しです。

POR-15は、ピカピカに磨き上げられたパネルには密着せず、硬化後に剥がれてしまうことが解っているのですね。(動画を再生するなら音量に注意

▲ POR-15 をボディーパネルに用いた例。(音量注意

さて、コスモのタンクに話を戻します。

金属製の燃料パイプ類はタンク同様にPOR-15のシーラーでコーティングし、パッキンやホースバンドは新品に交換します。スクリューは、錆びたり潰れたりしていなければ、磨いて再使用しても良いでしょう。車外に露出している燃料タンクなら、小さなスクリューは全部交換の方が無難ですね。


コーティングが完了した吹き返し防止用のフラップ。
塗膜の厚さで動きが損なわれないよう、組付け前に確認します。


このくらい軽く滑らかに動けば、安心です。


処置前は、こんな状態でしたね。

↑ Before

こちらはフィラーネック。

POR-15 タンクシーラーの塗膜は小さなねじ穴を狭めるので、乾燥を開始する段階で厚さをコントロールする必要があります。同様に、パッキンの接触面が平滑であることも必須条件なので、乾きはじめて粘りを増したシーラーが段付きで硬化しないように、注意を払います。


これも、見違えるほど綺麗になりました。

↑ Before

どうでしょう?
燃料タンクのレストアが綺麗に決まると、エンジン整備のモチベーションが俄然高まりますね!

故障診断はもとより、パワートレインの再生整備にあたっても、燃料タンクには不安の種があってはなりません。なぜなら、「燃料タンクが錆びています」という故障コードなど、どの国のクルマにも存在しないのですから。



燃料フィルターやストレナーは、すべて新品に交換します。



フィード、リターン、EVAP の各ホースを整えて、クルマに搭載すれば、完成です。


錆びた燃料タンクをPOR-15でコーティングする内容を、3回の記事に分けて紹介しました。ケミカルによるサビ取りからタンクシーラーによる防錆処理まで、写真のある限り詳しく解説しましたが、ご覧いただいた方々の目にはどのように映りましたか?

「バカだな、こんな苦労して」

ですかね(^-^;)

まあ、それは否定しませんが、FTECが何より伝えたかったのは

・ 新品のタンクがあるなら、是が非でも買うこと
・ 途中でやめるなら、初めから手を出さないこと

です。

日本の道路運送車両法の元では、乗用車の燃料タンクを別物に変えて公道を走らせるのは至難の業です。新品のレース用タンクより錆びて今にもホースニップルがもげそうなタンクの方を安全と見做す行政の矛盾が、旧車乗りの働きかけによって是正されることを願います。


最後に、POR-15によるタンクコーティングの様子を記録した、究極の動画 を紹介しましょう。

この動画の主は、「これ以上詳しいタンクコーティングの記録をよそで見つけることはできないだろう」、と注記しています。FTECも作業内容を公にする努力はしているつもりですが、この動画の解りやすさと面白さには脱帽です。

タンクコーティングに興味を持ち、自力でやりたい人にとっては、正に "Ultimate Program" 。
作業を誰かに依頼する人は、「何に対価を払うのか」 を理解できることでしょう。




かくして燃料タンクから錆の心配がなくなり、ようやくエンジン整備が始められます。

旧車を後世に遺す気概のあるオーナーは、燃料タンクの不具合がエンジンのみならずパワートレイン全体に影響して、故障診断の精度と速度を大きく狂わせることがあると覚えておいてください。

FTECは、絶版車のかけがえのないタンクを最善の状態に仕上げるために、あらゆる知識と技能を尽くします。一連の記事が、旧車乗りの方々の心に留まることを祈ります。





おまけの動画は、ユーノス コスモ 新車デビュー当時のプロモーションビデオとTVコマーシャル。

モノを売るCMなのに、価格を表示しないのが「粋」でした。

バブル絶頂の日本は、今の目線からするとまるで桃源郷のようですね。






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