第2回は、タンク内部の錆を取り除いてコーティングの下処理を施す内容です。
タンク内部のコーティングには、POR-15 フューエルタンクリペアキットを使用します。
POR-15 Fuel Tank Repair Kit |
タンク内に露出するフュエルフィラーネック |
厚手のペーパーとマスキングテープでパッドをつくり、パッチテストを行います。
POR-15のキットでは、まずクリーナーディグリーサーによる錆落としを推奨しています。
クリーナーディグリーサーは、かつてマリンクリーンと呼ばれていた、POR-15シリーズのケミカルの後継商品。POR-15シリーズのその他のケミカルと同様に、成分は一部秘匿されています。
今回はそれとは別に、塩酸系のケミカルを比較検討することに。
こちらは成分が公開されている商品です。
2種類のケミカルをパッドに含浸させてしばらく放置。
これは、フュエルリッドと前出のフィラーネックを繋ぐパイプです。
給油時のガス抜きとオーバーフローを処理するパイプが鑞付けされています。
真鍮蠟は10%程度に希釈した塩酸ではびくともしません。しかし、鋼の母材が錆に侵されてクラックが入っていると、ポロリと取れてしまうこともあるので注意が必要。
蠟付けの状態は良好です |
ラバーホースが被っていた部分には錆が |
車室内に通っていたパイプなので、外観は綺麗です。
内壁全体に生じた錆を取り除くためには、開口部をふさいで溶剤を注ぎ込む方法 が有効です。
開口部の端面をステンワイヤーで清掃 |
パイプ内壁に生じた錆の様子。
タンク側から見た内部 |
キャップ側から見た内部 |
テープで確実に密封したら、薬液注入の準備は完了です。
注入口以外を確実にふさぐ |
さて、パッチテストの結果はどうでしょうか。
パッドをはがして、錆の変化具合を比較します。
左がクリーナーディグリーサー、右が10%塩酸です。
左側より右側のほうが深く錆に浸透しており、表層が柔らかくなっています。
先ほどのステンワイヤーで、表面を磨いてみるとどうでしょう。
若干、右側のほうがクレーターが深いでしょうか。
母材に対する攻撃性は、同一条件ならばクリーナーディグリーサーのほうが低いといえそうです。しかし、10%塩酸と同じ効果を得るためには相当長い時間がいることは確実だし、そのとき母材がどの程度侵されているかを比較しなければ優劣の判断はつけられません。
ちなみに、ケミカルを使わずにステンワイヤーで磨いた中央部が、もっとも良い表面性状を保っています。それができない部分だから、ケミカルを使わざるを得ないということですね。
クリーナーディグリーサー(旧 マリンクリーン)は、50℃程に温めて使用することが推奨されており、母材側の温度も高い状態を維持した方が結果が良いことが分かっています。
水洗いの工程は写真が残っていなかったので記事では割愛しています。
実際には、満水にして沈殿物と共に排出する工程を何度も繰り返しています。
少しでもガソリンの臭気が残っているうちは、絶対に火に近づけてはなりません。
クリーナーディグリーサーは、沸騰したお湯と1:1で混ぜて全量を投入します。
タンクを何度まで温めるかについては、特に決まりはありません。
真夏の路上では70~80°にはなるでしょうから、その程度までなら安心です。
真冬のタンクコーティングでは、温度が下がらないように管理する工夫 が必要です。
クリーナーディグリーサーがタンク内の錆に平均して行き渡るように、タンク本体の姿勢を変えながら転がしたり揺さぶったり。そうしているうちに温度が下がると、内部の気体が収縮して「もっと温めよ」とアピールしてきます。
気温が25℃あれば、POR-15の説明書にある通り、24時間で錆取りが完了します。
FTECとしては、温度管理をしながら何度か繰り返すことをお奨めします。
プラスチック製の給油パイプの途中には、吹き返し防止用のフラップがあります。
これもすっかり錆びついて動きが悪くなっていたので、金属部品を分離します。
長年ガソリンに曝されていたプラスチックは脆くなっているので、嵌合を解くには相応の心づかいが必要です。
シャフトとフラップをクリーナーディグリーサーに浸け込み、タンク同様にコーティングを施します。
フィラーパイプには、最初に確認したガソリンからの析出物が入り組んだ場所に硬く付着していることから、10%塩酸を封入して処理することに決めました。
クリーナーディグリーサーの反応が進むタンク内部の様子。
この蒸気は人体に有害なので、作業者には保護具の着用義務があります。
浸け置きから24時間が経過したフラップとヒンジピン。
苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)溶液で中和した後、入念に水洗い。
ブラシ等でまったく擦らずとも、画像のような状態になります。
最初の状態と見比べてどうですか?
俄然 やる気が高まる美しさ と、FTECは思います。
↑ 処理前
↓ 処理後
このように入り組んだ隙間には、サンドブラスターは使えません。
高圧で噴射されたメディアが、隙間に挟まってしまうからです。
ボディパネルなら多少は融通がききますが、燃料装置系統はそうはいきません。
錆と一緒に、錆落としの役を担った物にも、仕事が済んだら退去していただかなくては!
さて、温度を保ちながら、さんざん転がしたり揺さぶったりした燃料タンク。
頃合いを見計らって、内容物を排出します。
クリーナーディグリーサーは水で希釈できるので、高圧洗浄機で洗い上げます。
POR-15 タンクコーティングの下処理として、サビ取りの次にはメタルプレップ(旧 メタルレーディ)を使います。中和が済んでベアメタルに戻ったフィラーネックやパイプ類も、コーティングに備えて同じ処理を行います。
メタルプレップはクリーナーディグリーサーとは違い、使用時に水(お湯)での希釈はしないので、母材は乾いた状態のほうが良い結果を得られます。特に自動車用の燃料タンクは、内部に複雑なバッフルプレートが配されて、それぞれが溶接で組み立てられていますから、いわゆる「入隅」の部分に水分が残りがちです。そして、燃料タンクコーティング失敗の原因である「密着不良」は、平面ではなく角から発生する事が多いのです。
メタルプレップの工程も、燃料タンク共々少し温めて行ないました。
メタルプレップは原液のまま、クリーナーディグリーサーと同じように全量を投入。
細かな部品はジップロックに入れて漬け込みます。
当然、この工程でも薬液を行き渡らせるために、燃料タンクを転がしたり揺さぶったりすることが必要です。コスモの85リットルタンクは大きく重いので、油断すると手袋越しでもケガをしますよ!
メタルプレップの処理が完了したら、再び大量の水を使用して燃料タンク内部を洗浄します。
母材に別の薬液成分が残っていては、完璧なコーティングは望めません。
これがコーティング前の最後の水洗いになります。
タンクの外側から侵入するケースも考慮して、内外とも徹底的な洗浄を心掛けましょう。
下地処理の仕上げは、乾燥の工程です。
POR-15 フューエルタンクシーラーは、母材側が完全に乾燥していることを絶対条件としています。少しでも水分が残っているとその部分は密着不良となり、最悪の場合は乾燥後にその部分だけコーティング層が剥がれてきます。
また、完全硬化したPOR-15の上にPOR-15を塗り重ねることも、密着力の面で躊躇われます。
POR-15 フューエルタンクシーラーは、指定薬品による正しい下処理のもと、1回限りで完全なコーティングを完了させることを要求します。
よくよく心に刻んで、知恵と手段を尽くして「完全な乾燥」を実現しましょう。
下地処理の仕上げとしての乾燥に、必要な時間は定められません。
個々の燃焼タンクには個性があり、容量や構造、サビの発生具合などの要素が、乾燥に必要な条件を左右するからです。
とにかく入念に、一滴の水分も残さず外へ排出 しましょう。
日本の場合、冬季の気候が乾燥しているので夏季よりは多少楽です。
しかし結露させてしまっては台無しですから、その点にも注意が必要です。
下処理が完了した燃料タンク内部 |
次回は、いよいよタンクシーラーでコーティングを行ないます。