ユーノス コスモ JCESE 型 (1990年式) です。
クーラーコンプレッサーの破損をともなう、エアコン修理で入庫しました。
入庫時は、コンプレッサーが内部の破損によってロックして、ベルトが切り取られた状態。
コンプレッサーAss'y の交換が必須なので、この機会にクーラーガスの仕様を旧ガス(R12)から R134a に変更することに決めました。
破損したコンプレッサーの取り外しに先立ち、クーラーラインの健全性を確認します。
コンプレッサーが壊れていても、真空引きをすればガス漏れの有無は判定できます。
.
オーナーによると、クーラーコンプレッサーがロックする直前までは冷風がちゃんと出ていたとのこと。従って、修理にあたるメカニックがすべきことは、第一に破損による切り粉の行方を確かめること。第二に、コンプレッサーのロックがガスとともにオイルが漏れ出たことによるものかを探ること、と言えます。
真空引きのバキュームポンプを停止させてゲージマニフォールドの指針を観察する方法で、24時間後の気密状態を確認します。幸い、顕著な漏れはありません。
次に、クーラーコンプレッサーのホースを取り外し、破損したコンプレッサーから生じた金属粉がクーラーライン中を循環していないかを確認します。ディスチャージ側をショップエアーで逆流させる方法で僅かにメタリックなオイルが排出されましたが、サクション側にはまったく異常が認められませんでした。
エアコン修理の工数と費用はエバポレーターを整備対象にするか否かで大きく変わるので、エンジンルーム側の処置だけで修理を完了できる見込みが有るのであれば、その方法を採るのが合理的だとFTECは判断します。
今回のエアコン修理で交換する部品は、
・ クーラーコンプレッサーAss'y
・ コンプレッサードライブベルト
・ リキッドタンク(= ドライヤー、アキュムレータ)
として、金属粉の懸念にはクーラーライン内部を入念にショップエアーで清掃することで対処することに決めました。
コンプレッサーの品番は、旧 ヂーゼル機器(≒ゼクセル、ボッシュ) DCW-17BE。
パーツナンバーは、506231-0121。冷媒(= クーラーガス)は、R12専用です。
これのクーラーガスをR134aに仕様変更して修理します。
日本国内でリビルドされたコンプレッサーの多くがそうであるように、このコンプレッサーにも専用オイルが封入されていました。せっかくの新品オイルですが、R12用のコンプレッサーオイルはR134aのクーラーガスには溶けないので全量を排出します。
クーラーガスをR134aに変更するために新たなオイルをどう選ぶかは、意見の分かれるところです。いかに念入りに洗浄しようとも、再使用する部品がある以上、R12用オイルの影響を無視する訳にはいきません。
FTECでは、製品が本来使用を前提としているオイルの粘度特性と近く、かつ新旧の親和性の良いオイルを選んで、新たな仕様を決めることを心掛けています。
先述のように、切り離したクーラーラインはショップエアーで清掃します。
この方法は切り粉の残留を防ぐとともに、ホースやパイプ内の古いコンプレッサーオイルを排出する効果も期待できます。
再接続の際には、OリングシールをすべてR134a用の部品に変更します。
新しい部品を装着したら再び真空引きをして、最初の診断と同様に気密状態を確認します。
R134a用の蛍光リークテスターを注入して、ガスの充填に備えます。
R12からR134aにクーラーガスを変更すると、システムが要求するガスの量も変わります。
この判断にも諸説あるのですが、FTECでは吹き出し口の温度を指標にしています。クーラーコンプレッサーが可変容量タイプだったり、エキスパンションバルブの調整指標が違ったり、プレッシャースイッチやアディショナルファンの作動条件が違ったりと、個々のクルマによる条件の差が大きいので、十把一絡げに定義することはできないと考えているからです。
要するに「一番冷えるところがちょうどいいところ」、という見方ですね。
供給温度は3℃。素晴らしい成績です。 |
日本で、カーエアコンのクーラーガスがR12からR134aに切り替わったのは、1990年代初頭のこと。当時、ボルボなどの輸入車勢がガスだけを新しいものに変更する「レトロフィット」のサービスを提供しはじめ、日本車にも使えるというふれ込みの怪しい製品がたくさん市場に出回りました。
その価格と品質はまさしく玉石混交で、混沌とした時代が90年代いっぱい続きます。やがて淘汰が進めば良品だけが生き残り、真贋を見定める目が養われ、それが世に定着すればクーラーガスのコンバージョンなど、解説不要の常識になるだろうと予想していました。
ところが現実はそうならず、耐久消費財としての自動車の地位が暴落して大多数の人々が興味を失った結果「何をどうするのが正しいのか」 という基本さえうやむやのまま放置され、今やそんな整備が存在したことさえ忘れ去られようとしています。
クルマの寿命を決めるのは、オーナーです。そこに疑念の入る余地はありません。ゆめゆめ、その権利を政治家やセールスマンや知り合いの自動車通などに委ねたりしませんように。
FTECの修理は、性能を持続的に発揮せしめることを一義的な目的としています。
人が拵えたものは人の手で治し得る、
というのが、基本的な理念です。
健全な自動車を一台でも多く後世に遺せたら、それ以上の望みはありません。