クライスラー 300C(LX57)です。
ヘッドライトの動作不良で入庫しました。
イグニッションスイッチOFFと連動して消えるので、バッテリー上がりは起こさないのですが。
現車のライトは、前照灯、補助灯(フォグライト)共に、HID仕様に変更してあります。
症状発生時はフォグライトも常時点灯となり、イグニッションOFFまで消灯できない状態に。
さて、どこで何が故障したのでしょうか。
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LX57型クライスラー300Cのヘッドライトコントロールは、
・ ヘッドライトスイッチ
・ コントロールモジュール
・ サンロードセンサー
の三要素から成り立っています。
サンロードセンサー(= 日射センサー)は、オートライトの動作をつかさどる要素ですが、現車には元々装備されていないので、点検箇所はライトスイッチとコントロールモジュール、それらをリンクするワイヤリングに絞られます。
スキャンツールを用いて、車輌各部のコントロールモジュールを診断します。
いわゆるコンピュータと呼ばれる複数の部品が相互の健全性を監視し合う仕組みになっているので、疑うべき要素にコントロールモジュールが含まれる場合はそれらのコミュニケーションに異常が無いかを調べることから始めます。
故障したコンピュータが「私は故障しています」と、正しく申告することはまずありません。
LX57型クライスラー300Cの場合、コンピュータコントロールネットワークは端末の分野毎に17に分割されています。このうちキャビンのコントロールをつかさどるものについて、断絶や錯誤が無いかに注意しながらバスコミュニケーションリンクを辿ります。
ハードウェアver. 38 / 4C
ソフトウェアver. 00 / 04 / 05
ECU品番 56044943AF
相互通信が正常で自己診断装置が有効に機能する目途が立ったところでDTCを点検。
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Primary System CABIN COMP NODE
OEM Current Code
B1608B Headlamp Switch Input Circuit High
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を検出。
ヘッドライトスイッチからコントロールモジュールに、誤った信号が送られているようです。
配線図を確認すると、LX57型クライスラー300Cのヘッドライトスイッチは、フォグライトスイッチとディマースイッチが一体になっており、それぞれのスイッチポジションで既定の抵抗値をインストルメントパネルクラスター側に返す仕組みになっていることが解かります。
ヘッドライトに限っては、スイッチポジションOFFで通電を断絶するのではなく、OFFをあらわす抵抗値を返すことによって、コントロールモジュールが選択的に消灯させる設計です。
ここがアメ車の巧妙なところで、故障時に消えたままになるよりは点いたままになる方が良い、という、フェイルセーフの概念が息づいている証しだとFTECは考えています。
部品交換の前に、ヘッドライト関連の電源供給回路にヒューズ切れ等の不備がないか確認します。LX57型クライスラー300Cのヒューズは、エンジンルームとトランクルームのパワーディストリビューションセンターに配置されています。
■ 前パワーディストリビューションセンター(エンジンルーム側)
キャビティ# 回路 ヒューズ容量
01 HID ヘッドライト左 20A
02 HID ヘッドライト右 20A
06 フロントコントロールモジュール(FCM) 15A
07 フォグライト 20A
09 フロントコントロールモジュール(FCM) 15A
23 HID ヘッドライト 50A
25 フロントコントロールモジュール(FCM) 30A
27 フロントコントロールモジュール(FCM) 30A
■ 後パワーディストリビューションセンター(トランクルーム側)
キャビティ# 回路 ヒューズ容量
29 ABS、FCM、PCM、キーレスエントリーシステム、ストップライト 5A
44 アンプ、FCM、スライディングルーフ 20A
上記10本のヒューズが健全であることを確認し、ヘッドライトスイッチの交換を決めました。
ヘッドライトスイッチ(ヘッドランプスイッチ)には、インストルパネルの下側からアクセスします。サービスマニュアルの手順に従って、配線とダッシュパッドを損なわないように取外します。
ヘッドライトスイッチは日本国内に在庫があり、すぐにFTECに入荷しました。
新しい部品を現車のそれと比較すると、なんだかちょっと違う気が・・・
旧部品にあったフォグライトスイッチ(ディマーコントロールタンブラーの下)が無くなっています。仕様違いの部品なのでは?と急いで部品供給元に連絡。
左 : 新部品 右 : 旧部品 |
でも大丈夫でした!新部品はダイヤルスイッチがダブルファンクション化されており、1回プッシュでフロントフォグランプが点灯、2回プッシュでリヤフォグランプが追加点灯、3回プッシュで前後フォグランプが消灯する仕様に変更されていたのです。
かくして現車のヘッドライトは、元通りの機能を回復しました。
ヘッドライトと連動してフォグライトの点灯も異常となったのは、フォグライトHID化の際にヘッドライト内にあるクリアランスライトと連動するよう点灯条件を変更したためです。
アメ車のヘッドライトにフェイルセーフの概念が見られることは上述の通りです。回路の設計だけでなく、たとえばリトラクタブルヘッドライトなら故障時に閉じっぱなしになるより開きっぱなしになる方が良いということも、全メーカー共通の概念になっています。
そもそも故障しないように作れよ、というツッコミは無しの方向で。
日本車なら壊れないぜという自信も、最近怪しまれているところですし。
人間がする失敗を根絶することは不可能で、それを前提に安全運行を目指す。
その設計思想には学ぶところも多いのではないかとFTECは考えています。