リンカーン コンチネンタル マーク5 (1979年式)です。
シャシー下まわりの整備で入庫しました。
現車は本国でほとんど乗られずに数十年も保管されていたクルマです。
経年劣化の内容が走行の積み重ねによるものとは違うことを念頭に整備することが肝要です。
入庫時には、ハブベアリングにガタがありブレーキに引きずりの症状が出ていました。
まずはシャシー下まわり全体を仔細に観察し、要整備箇所に優先順位をつけます。
現車の下まわりは、車庫の床面から上がった湿気で錆が広がったと予想できる状態。
ほとんど走行していなくても、37年の月日がクルマにもたらす影響は少なくありません。
リヤまわりの錆び具合。
排気管からの熱影響が、左右の差になって現れています。
錆びて汚れてはいるものの、欠損している部品はありません。
コイルスプリングに装着されているインシュレータも、全部原形をとどめています。
1979年式の排気系統は触媒を備えています。高温の排気ガスと大量の水にさらされる条件ながら、オリジナルのサイレンサーは表面の錆び以外に劣化の兆しもなく、排気音は非常に静粛です。
地面に近い場所から順に浮錆が噴出していることが、現車の特殊な事情を表しています。
もしこれが年式相応の走行距離をともなう経年劣化であれば、水分を含んだ泥汚れが足回りやボディパネルの入隅に堆積し、そこから腐食が発生したりしているものです。
一見しただけだと安全に運行できるのか心配になりますが、こういうクルマは蘇ります。
稼動箇所をあるべき姿に整えてやれば、文字通り目覚ましい走りを実現できるでしょう。
要整備箇所は多岐にわたるので、系統別に優先順位を付けます。
まずは、ブレーキ系統から点検を始めましょう。
随分長いこと触れられずにいたようで、ブリーダーも錆びて蜘蛛の巣が張っています。
前後ともブレーキキャリパーは要オーバーホール。
ブレーキホースも全部交換が絶対条件と判断します。
ショックアブソーバーからもオイル漏れが。
ショックアブソーバーも、全数セットで交換します。
冒頭で触れた通り、フロントハブにはガタつきが生じています。
ハブにガタがあると、ブレーキパッドがディスクローターでガタの分だけ押し戻されるため、ペダルフィールの悪化やパッドの偏摩耗に繋がります。
79年式 リンカーンマークⅤのフロントハブベアリングはテーパーローラー式。
内外ハブベアリングとオイルシール、ハブキャップ等をセットで交換。
バンプラバーやリンクブッシュには、走行によるダメージがほとんどありません。
新車時の乗り味の回復という視点に立つと、優先順位は低いと見做すことができます。
点検結果を総括し、今回のシャシーリフレッシュメニューを
・ 前ハブベアリング交換
・ 前後ブレーキキャリパーオーバーホール
・ 前後ブレーキホース交換
・ 左右タイロッドエンド交換
・ 全ショックアブソーバー交換
と決めました。
繰り返しますが、現車の経年劣化は長年車庫に放置されたことによるものです。
その一方、不測の事態が懸念される部品は積極的に交換します。
メーカーが想定する通常運行の枠外で過ごしてきたクルマに、サービスマニュアル記載の整備スケジュールが通用しないことは言うまでもありません。
こうしたクルマの整備には、一切の先入観を捨て、心事を公正に保ち、分解点検の手間を惜しまず、機械の発する声に耳を傾ける注意力を持続的に発揮できる整備士が欠かせません。
FTECが求める人材はFTECを求める人々の要請によるものです。
FTECコーポレーションは、車格や車齢、国産外車を問わず、運命の一台として出逢ったクルマを慈しんでやまない人々の期待に応えるべく、今後も体制を強化し精進を続けてまいります。
次回の記事では、フロント周りの整備からご案内いたします。