埼玉県狭山市の自動車整備工場、FTECコーポレーションが、主に特殊整備にカテゴライズされる業務内容を紹介するブログです。

スカイラインGT-Rのエアコン変換 2/3

BNR32型 スカイラインGT-Rのエアコンアップデート。
前回に続き、BCNR33用コンプレッサー流用を含む詳細をご紹介します。


BCNR33用のクーラーコンプレッサーには、クーラーガスがR134a仕様というだけでなく、BNR32用のコンプレッサーより大幅に小型軽量化されているという美点があります。

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オイルを含むコンプレッサーの重量は、BNR32用の7.2kgに対してBCNR33用は4.9kg。プーリーも小径化されているので、ベルトトレーンの慣性マスも小さくなります。


外寸法が小さくなるので、搭載性は良くなるばかり。
エンジン側ブラケットへの装着は、BNR32用の部品で完全ボルトオンです。


一方、ふたつのコンプレッサーは、高圧(ディスチャージ)側も低圧(サクション)側も、接続ポートの位置がまるで違います。従ってこの2本のホースについては、新たに製作する必要があります。

何度か仮組みを繰り返し、両端のフィッティング位置と角度を確認し、純正品と汎用品で肉厚や曲げ半径が異なるラバーホースの特性を考慮して、新しいホースの寸法を決定します。


協力会社と緊密な連携がとれたおかげで、最高品質の部品ができました。
現車合わせなので当然ですが、これなら難なく取付けできそうです。


低圧(サクション)側ホースはエンジンのエキゾースト側を通すので、遮熱スリーブやクランプの役割は重要です。熱や振動への対策は、BNR32純正品をもれなく流用。これらを省略してもエアコンは効きますが、20年後もその性能が維持されているかは、細かな配慮の積み重ね次第だとFTECは考えます。


配管のフィッティングに使用するOリングは、当然すべてR134a用になります。
汎用品を選定する際には、規定トルクで締め付けてから再度分離し、Oリングの状態を確認することが肝要です。



内外径と線径で候補を挙げて、実際に締め付けて最適なOリングを選びます。


こういう締め付け条件であれば、選定は容易なのですが・・・


こういう条件になると警戒が要ります。

ここはコンプレッサーとホースフィッティングの結合部。アルミダイキャストの機械仕上げ面同士を嵌合させる設計ですが、1本のボルトで締め付けるので圧力の不均衡が起きやすい構造です。

テーパー状の座面に上からOリングを押し付けるのに、偏芯して配置されたボルトが1本しかない訳ですから、締め付けトルクが大きすぎても小さすぎても問題が生じます。

おそらくこれが、BCNR33中期以降のコンプレッサーに変更が施された理由でしょう。コンプレッサー側に挿入するパイプの側面でOリングを保持すれば、圧力の不均衡が起きるリスクを大幅に低減できますから。



ここに使うOリングは、細すぎればガス漏れを起こすことは言うまでもありませんが、太すぎてもガス漏れの原因になることを覚えておかねばなりません。

フィッティングのボルトを規定トルクで締め付けたら、機械仕上げ面同士の嵌合部全周が完全に密着していることを、ミラーを用いるなどして確認する工程が絶対に必要です。

太いOリングをつぶして使いたい心理に流されて太すぎるOリングを選んでしまうと、ボルト側と反対側の嵌合部にかかる圧力に不均衡が生じ、甚だしい場合はボルトと反対側の嵌合面が開くことさえあります。

このように組んでしまうと、機械仕上げ面同士で剛結するはずのコンプレッサーとフィッティングの間にエンジンの振動による摩擦が生じ、静止状態でさえ偏荷重がかかっているOリングは設計寿命のはるか手前でガス漏れを起こし始めてしまいます。

そんな状態でもエアコンは機能するのですが、性能が持続する年月に大きな差が出ることは言うまでもありません。


ベルトテンショナーのローラーは、BNR32の部品が使えます。
清掃と点検のうえ、ベアリングを交換して再使用。




コンプレッサードライブベルトは、プーリーの小径化に対処するため、BCNR33用を使用します。傷のあったファンシュラウドも交換し、少しでも効率が高まるよう意識しながら組付けていきます。





アディショナルファンの稼働率を上げてコンデンサーを積極的に冷やすため、純正のプレッシャースイッチ回路に水温スイッチを割り込ませます。

社外品のアルミラジエターにベンガラ色のシーラントを塗りたくって着けられていた水温スイッチは交換しました。

不適切な処置は大抵、やるときは楽でしょうが後始末は大変なものです。

これでは温度を拾えません。

ねじ山の残留物を除去。


汚れ放題の純正カプラーを清掃し、ファン回路の配線を変更。



組付けが進むに従い、作業域が遠のいていきます。
こういう時は、「次の20年も頼むよ」と声が出そうになります。





このOリングは、コンデンサー下流側のフィッティングから点検のために取り外したもの。

よく観察すると、均一に潰れていないことが分かります。

このような不具合はどこでも起こり得るので、ボルトであれユニオンであれ、締め付けによる拘束力が発生する前の段階でOリングの据わりが良くなるよう配慮する必要があります。



リキッドタンク部のユニオン。「締め付ければ角度が揃う」という概念を捨て、「一直線に揃ったパイプでOリングに均一な圧力をかけながら締め始める」ことが成功の鍵です。


新しいOリングにはPAGオイルを塗布。



エッジでOリングを傷めないように。




RB26DETTを搭載する第二世代GT-Rに共通する、熱交換器のレイアウト。

クーラーコンデンサーに最高の仕事をさせるためには、ファンシュラウドやアンダーカバーが完全な状態で取り付けられていることはもちろん、冷却風が一方通行になるように隙間を埋める処理が有効です。



ニスモダクトは、少なくとも走行中には、エアコンの効率にも寄与します。

これで、エンジンルーム側の組立てが完了しました。
次回は、室内側の作業を記事にします。




おまけの動画は、1990年3月18日に開催された全日本ツーリングカー選手権第1戦のダイジェスト。ハコスカ最後の勝利から18年ぶりにサーキットに帰ってきたスカイラインGT-Rが、あらゆるものを蹂躙していく最初の一歩を見ることができます。

この5か月前の富士スピードウェイでインターTECを観ていた時には、シエラRS500と対等に闘える国産車が現れるなど、想像もできなかったのですが…。