埼玉県狭山市の自動車整備工場、FTECコーポレーションが、主に特殊整備にカテゴライズされる業務内容を紹介するブログです。

SC430のシャシー整備・3/3

レクサスSC430(UZZ40型)です。

前回の記事で、種々の警告灯が点灯する問題を解決しました。それにより正当な走行テストができるようになったので、ボディ補強を含むシャシーの整備を再開します。


前々回の記事で、ボディ補強の要点を解説しました。

走行性能に直接響く「実際の剛性」と、ドライバーの感応性を左右する「剛性感」とは、別物であることをご存じの方も多いでしょう。

今回取付けるボディ補強の部品は、「剛性感を高める部品」に分類されるものです。

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はじめに、ドアキャッチとストライカーを、TRDのドアスタビライザーに交換します。
品番は MS304-18001、トヨタ86(ZN6型、2012-2021)用の部品です。


純正ドアキャッチとTRDの比較。黒く四角いパッドが楔状の断面をしており、ドア側に装着する同様のパッドと面接触(線接触)する仕組みです。



取付は、双方ともボルトオン。
ワークベイではドアの開閉確認だけを行い、効果の測定はテスト走行時のお楽しみに。





黒いパッドは、まったく弾性が無く、良く滑る表面をしています。
走行中にドアと車体が別の動きをしても、ここが面接触していれば異音は出ません


次に、カチカチくんなるクリップを、左右のドアオープニングに取り付けます。


SC430のサイドシルは、一般的なクルマより凝った構造になっています。

薄板2枚重ねの部分は少なく、前方のドアヒンジ付近には3ミリ厚の補強板をサンドイッチした4枚重ねの部分さえあります。


サイドシルガーニッシュを取付けるクリップを避けて、文房具のガチャ玉のような金具をびっしりと付けます。この金具はステンレスのばね鋼で、0.5ミリの材厚があるため、素手でこのように装着するのは困難です。


とはいえ、重ね合わせた鋼板の保持力が溶接並みに高まることはあり得ません。しかし、執念深く施工することで、音振の感応性評価が高まることはあるかもしれない、と思います。


乗員の肩に向けて立ち上がってくる合わせ目は一般的な構造なので、間隔を詰めて取り付けることができます。



材厚が0.5ミリで喉厚も適当なため、純正のモールを元通りに組むのに苦労することはありません。


次は、タイヤです。元々、TOM'Sの補強ブレースキットは、装着後にはアライメント調整をすることと定めています。

現車が装着しているタイヤは古く硬く、摩耗も進んでいます。左側前後輪の内側の摩耗が特に目立ち、タイヤの直径も揃っていないことは確実。

このようなタイヤでアライメント調整を行うのは得策ではありません


オーナーと話し合い、今回はピレリP-ZEROランフラットタイヤに交換することに決めました。


純正ホイールを古いタイヤが付いた状態で清掃するのは、正確なバランス調整に役立つからです。


タイヤ&ホイールを軽量なものに替えると劇的にクルマの感触が良くなるのですが、ボディ補強の効果を堪能するためにはこの選択のほうが有効です。


ここでひとつ、思いがけないアクシデントがありました。タイヤ空気圧センサーのひとつに瑕疵があり、正確に空気圧を揃えることができないと判明したのです。

具体的には、ステムの外周に傷がありエアゲージのフィッティングが正常に機能しません。バルブコアは全て新品に交換済みですが、シート面が整っていないと見えてエア漏れを起こしやすいことも判りました。



SC430のタイヤ空気圧監視システム(TPMS)は、4つのホイール内に異なるIDをもつ空気圧センサーを備え、それぞれのセンサーから無線で送られてくる空気圧の数値を監視しています。

レクサスとトヨタのディーラー双方に確認したのですが、この年式のタイヤ空気圧センサーはスキャナーでIDを呼び出すことができず、現品の記号を目視で確認するしかないとのこと。

というわけで、不具合の出たタイヤを再び外す羽目になりました。細密な作業で応じてくださった埼玉GYのスタッフに、心から感謝いたします。


タイヤ空気圧センサー、新旧の比較。
左の新型は若干小型化されて、バルブ穴周りのシールが1枚簡略化されています。


新しいタイヤ空気圧センサーを車体側に登録して、警告灯が消灯することを確認します。

通常、一発で決める新品タイヤのビードを落とさざるを得なかったので、何度も繰り返し空気圧を合わせながら走行テストを長めに行い、所定の性能が間違いなく出ていることを確認しました。

これで、アライメント調整の工程に進むことができます。



アライメント調整の狙いどころは、走行テストで絞り込みます。

調整前の走行テストでは、路面の不整がクルマの挙動を左右するせいで、細かなステアリング修正に忙しい状態でした。


徹底したボディ補強によって、ドライバーの微細な操作にクルマが追従するのは、悪いことではありません。しかしその反面、タイヤ接地面からの情報が過剰にドライバーに届くことで、煩わしい印象を受けることもあります。

例えるなら、「道が悪いねえ」「路面うねってるねえ」「轍がひどいねえ」などとひっきりなしに言う人が、助手席に乗っているようなものです。


これらの条件を総合的に評価して、進路保持性を高める方向に狙いを定めます

開き気味だった前輪のトー角を公差の上限寄りまで閉じ、公差の上限寄りだった後輪のトー角は中間位置に戻します。これらは、コクピット川越のスタッフによる作業です。

これで、荒れ気味の路面でもリラックスして走れるようになります。
後輪の内側が摩耗する現象も、軽減されるでしょう。


調整の効果はてきめんで、走り出してすぐにステアリングの据わりが良くなっていることに気付きます。

レクサスSC430のステアフィールは、メルセデスベンツSL500のように転舵を重くセルフアライニングトルクを弱く調律されています。

高速巡航では矢のような直進性を発揮する一方、ドライバーが積極的な回頭を求めれば予想以上の精度で応える、そういうクルマに仕上げることができました。



カーボンプライシングの波が押し寄せている世界情勢を見ると、「4.3リッターの2ドアクーペカブリオレ」という成り立ちのクルマが再び現れる可能性は低そうです。

一般道の交通の流れをリードするときでさえ2,000RPMに達することはまず無いこのクルマが、本当に環境負荷が多いのかについて大いに議論していただきたいとFTECは思います。

末永く健全に保たれて後世に乗り味を伝えてくれますように。