レクサスSC430(2005-10)です。
ボディ補強を含むシャシー整備と、各種警告灯が点灯してドライバビリティを損なっている問題を解決するために入庫しました。
前回の記事では、TOM'S Z382用のブレースキットを取付ける内容を紹介しています。今回は、エンジンチェックランプ(MIL)と VSC 、TRC OFF 警告灯点灯の修理を紹介します。
入庫時の問診によると、故障発生の状況は以下の通り。
1. 昨年購入した直後に、高速道路上で「VSC」と「TRC OFF」が同時に点灯
2. イグニッションOFFで消灯し、再始動すると消灯を維持
3. 走行開始後、10㎞程で再点灯
4. 最寄りの整備工場で、02センサー1本を交換
5. 高速道路と一般道、合計100㎞程走行したところで再点灯
6. エンジンチェックランプ(MIL)も点灯
はじめに、スキャナーでクルマ側の自己診断装置にアクセスします。
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FTECのワークベイに停車した状態ではどの警告灯も点灯せず、故障コード(DTC)もありません。建屋内でオールシステムDTCスキャンを実施すると「日射センサー異常」が指摘されるのは、正常な反応です。
問診票と整備記録簿の情報から、O2センサーの状態を調べます。
ライブデータを確認すると、4本のうち1本が機能していません。
機能していないO2センサーはB1S1、バンク1の上流側に装着されたセンサーです。
SC430が搭載する3UZ-FE型エンジンの1番シリンダーは、左バンク。
問診票にある、他店で最初に交換したO2センサーと一致します。
問診票にある、他店で最初に交換したO2センサーと一致します。
テストを継続中、「VSC」と「TRC OFF」、「エンジンチェックランプ(MIL)」が点灯しました。オーナーが指摘する故障の、再現ができたことになります。
再現した故障の状況を細かく分析すると、「エンジンチェックランプが先に点灯して、間もなくVSCとTRC OFFが点灯する」という順番で、問診票の順序とは微妙に異なります。
検出された故障コード(DTC)は、O2センサーB1S1に関するものだけです。
整備記録簿では、4本すべてが新しいO2センサーに交換されているはずなのに。
現実にどうなっているのか、O2センサーB1S1の周辺を調べましょう。
・・・なんだか、嫌な予感のする配線が。
電線縫合範囲が広いCE型閉端接続子で、自動車用のAVケーブルを繋いでいます。
自動車用のAVケーブルは細い銅線の束なので、ガバガバの端子を出鱈目な工具で力いっぱい締め付けても、繰り返し振動に曝されると緩んでしまいます。
正常が一定期間続くことと10㎞程で異常が再発することが混在している原因は、ここで導通不良や瞬断が起こるからではないでしょうか?
オーナーから詳しく事情を聴くと、「このクルマを入手して最初にO2センサーを交換する段階で、既に社外品のO2センサーが装着されていた」、とのことです。
このO2センサーB1S1の4本の配線は、CE型閉端接続子で70CM程延長された先に繋がれていますが、いつからそうなっていたのかは分かりません。
どうやら、
カプラーの形状が違うO2センサーを
↓
車体側のハーネスを切って繋ぐ際に
↓
純正のルートを通すのが面倒になって
↓
延長してやりやすい場所で繋いだ
というのが真相のようです。
手で触れているのは、右バンク上流側のO2センサー(B2S1)を結合する、車体側の純正カプラーです。このO2センサーはトヨタ純正品なので、配線の改造はされていません。
よく観察すると、茶色の配線に探針を刺して計測を行った痕跡があります。
O2センサーのカプラーは、エキゾーストマニフォールドやキャタライザー等、クルマ全体で見て最も高温になる領域に位置しています。
配線が正しいルートを通っていなかったり、クランプが外れて熱源に接近していたりすると、原因箇所の特定に時間のかかる厄介な故障を招きます。
自動車整備士は、このような過酷な環境に手を加えることによって別の故障を招かぬように、周辺に配置された他の系統の部品や装置にも、入念な配慮をします。
防水グロメットの脱落にも気を付けましょう。錆や水の侵入はカプラーにとって致命傷です。あらためて言うまでもありませんが、高温になるこの環境でハンダ付けは厳禁です。
レクサス(トヨタ)は、切除されてしまったO2センサーの車体側カプラーだけを、補修用部品として販売しています。注文には、カプラーの現品番号が必要です。
SC430はV8エンジンで排気装置が対称なので、右バンクの現品番号で注文できます。
車体側のO2センサーカプラーを待っている間に、故障を誘発しそうな配線を整理します。バッテリーを降ろして、バルクヘッドの隙間から延長された配線を観察していると・・・
・・・さらにヤバそうなものを発見。
かるく触れただけで、ポロリとこれが取れました。
エンジンの熱でべとついたビニールテープを解くと、想像以上の光景が。
全部のギボシが加締め不良の状態です。不良率100%とは、恐れ入ります。
オス側の端子に付いているスリーブは、メス側のスリーブの先を切ったものですね。
道具も材料も、碌なものが無かったに違いありません。流石にこれは、素人のDIY作業だと思うのですが・・・
自動車修理の「闇」を垣間見た思いがします。
自動車修理の「闇」を垣間見た思いがします。
新品のカプラーが入荷したので、気を取り直して修繕を始めましょう。
端子に15cm程の黒いリード線が加締められた物も、トヨタ純正部品です。
配線の修繕と並行して、O2センサー単体の点検も行いました。
前述のように、排気系統が左右対称なので、左右のO2センサーを入れ替えてスキャナーでライブデータを見れば、フィードバックされている情報を目視できます。
4本とも純正で揃えるのが最善と判断し、O2センサーB1S1は再交換することに決めました。
O2センサーの車体側ハーネスを修繕している途中で、更に面倒な部分を発見しました。延長ハーネスを繋ぐ先が、そもそも間違っていたのです。
O2センサーの4本の配線のうち、フィードバック用の信号線だけはシールド線なのですが、シールドの外皮が青色で内皮が黒色だったのです。これには、切られたエンジンハーネスの分岐部分までテープを解いて初めて気が付きました。
なお、トヨタ純正部品のO2センサーと純正エンジンハーネスの組み合わせでも、4本の配線の色は同じではありません。補修用の部品は4本とも黒色の配線でしか入手できないので、配線図だけではなく実際の信号をテスターで計測しながら接続することが肝心です。
エンジンを始動して、ライブデータを確認。今度こそ、正常にフィードバックしています。
O2センサーB1S1の配線を通すルートは、トランスミッションのベルハウジングを沿って風が通るフロアトンネル側に降ろし、左エンジンマウントの裏にある板金細工のステーにカプラーをクリップするのが正解です。
走行テストに出ると、すぐにドライバビリティの改善を体感できます。O2センサーのフィードバックが回復したので空燃比が適正となり、音も動きも軽くなっています。
冷間始動から完全暖機まで、停車アイドリングから高速巡航まで、様々な走行モードを試しましたが、チェックエンジンライト(MIL)はもう点灯しません。
VSC、TRC OFFも、点灯しなくなりました。これは、O2フィードバックが途切れて緊急モードで運用しているエンジンでは繊細な要求に応えられないことを意味している、と理解しました。また、周囲の安全確認を十分にしたうえで、TRCが正常動作することも確認できました。
今回の作業によって、レクサスSC430生来の動力性能が回復しました。
次回の記事では、ボディ補強の仕上げと、それを活かすシャシーの整備を紹介します。