埼玉県狭山市の自動車整備工場、FTECコーポレーションが、主に特殊整備にカテゴライズされる業務内容を紹介するブログです。

BMW M54型のカムカバー整備

BMWの直列6気筒エンジン、M54B22型(2000-06年式)です。
エンジンオイル漏れ修理で入庫しました。


カムカバーパッキンから漏れ出したエンジンオイルが触媒コンバーターに到達し、油煙が上がる状態です。この油煙は、エアコンが外気導入モードだと車室内にも侵入します。

ここの修理はエンジンを降ろす必要もないので、火災の不安に怯えたり変な漏れ止めのケミカルに目を奪われたりしないうちに、直しきってしまいましょう。

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少々見づらいですが、バルクヘッドにめり込むように搭載されているエンジンの右側(写真だと向かって左側、赤矢印の示すところ)の一番奥に、オイル漏れの痕跡が確認できます。


この車体はエンジンを右に傾けて搭載しているので、カムカバーパッキンからオイルが漏れ出したら真っ先にこの部分を濡らします。


漏れ出したオイルで濡れた部分の直下に、エキゾーストマニフォールド一体型の触媒コンバーターが見えます。茶色く焼け焦げて固まる過程で、油煙が上がっていたことが解かります。



アッパーパネルやイグニッションコイルを取外し、カムカバー後方にクランプされている配線類を解いたら、カムカバーを取外します。カムシャフト周りに目立った汚れや摩耗の形跡は無く、オーナーのオイル管理が適切であったことが覗えます。




交換するパッキン類の俯瞰図。カムカバーの外周とプラグホール周り、カムカバーをシリンダーヘッドに締め付けるボルトの周りのパッキンを交換します。


M54のシリンダーヘッドには、カムシャフトのジャーナルを研磨する工具を通すための切り欠きが前後に設けられており、この部分のオイルシールは、サーキュラープラグ一体型のカムカバーパッキンで行っています。


この切り欠きの両端部、即ち、水平仕上げ面との接辺付近には、液体ガスケットが併用されています。カムカバーパッキン交換の際には、古い液体ガスケットの残滓を些かも残さぬように、清掃を厳とすることが肝要です。



ヘッド側の清掃が組みつけに相応しいレベルに達しているかは、「指触」と「目視」を繰り返して確認します。この車体には、エンジンがバルクヘッドにめり込むように搭載されているので、後方からカムカバーパッキンの嵌合面を目視するには鏡を用いる他ありません。



ここの組みつけにあたっては、サーキュラープラグ一体型の外周部と前後2分割のプラグホール周りのパッキンを嵌め込んだカムカバーを、シリンダーヘッドとの結合直前に上下に反転させることになります。五感を駆使してすべてのパッキンの面接触を確かめましょう。

ショートエンジンをスタンドで組立てるのとは違い、作業域周辺には多くの配線配管類が通ったままですし、作業員の姿勢も理想とは程遠い筈です。

砂粒や髪の毛が挟まってもオイル漏れは再発します。ここが、この整備の品質を決定づける要の作業と心得て、僅かでも疑念が沸いたら初めからやり直す覚悟を決めましょう。



カムカバーパッキンを交換した後、スパークプラグを点検しました。
6番シリンダーのミスファイアが記録されていたからです。


カムカバーパッキンの交換中は、異物落下の可能性を排除するためにスパークプラグは外しません。複数の整備目的を同時に追わないことも、完成車の整備品質を高める要因だとFTECは思います。



取外したスパークプラグ。
全数、中心電極が碍子の際まで摩滅してしまっています。


このような状態でも、一見正常に運行できてしまうという事実は、多くの自動車ユーザーに知っていただきたいことです。これを放置すると症状は次の段階に進み、スパークプラグセットのみならず、イグニッションコイルセットも交換することになりかねない、ということも。


BMWは、M54型エンジンのスパークプラグ交換を

「80,000㎞ごと」

と定めています。しかし、現車の走行距離はまだ 56,000㎞。
30%も寿命が短くなった原因は、どこか別にもありそうですね。