トヨタ セリカ SS-III(ST200型)です。
エンジン下周りの液漏れ修理で入庫しました。
エンジン下周りの液漏れ修理で入庫しました。
走行距離は、250,000㎞。
IPC(≒初期診断)で、何がどこからどのくらい漏れているのかを調べます。
今回は、ドライブシャフトブーツの交換作業を記事にします。
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IPC(= Important Primary Check)では、現状把握を最優先します。
目につく順に不具合を直すと根本的な原因を見落とすので、注意が必要です。
IPCは、
□ 時間を決めて目についた不備不具合を逐一メモし
□ 優先順位を評価して整備の手順を決める
□ 時間を決めて目についた不備不具合を逐一メモし
□ 優先順位を評価して整備の手順を決める
そのための、情報収集をする工程です。
「初入庫で液漏れを修理する」
「予算にも時間にも限りがある」
ならば、
漏れる量と危険の度合いで整備の優先順位をつけるのが、整備士の役目です。
そのためには、アンダーカバーの汚れも有力な手掛かりになります。
アンダーカバー取付状態の不備は、整備の最終段階で対処します。
IPCでは、現状の把握に集中しましょう。
遠心力によって、ドライブシャフトのインナーブーツから飛散したグリスが見えます。
放射状に飛散して、周囲に付着していますね。
ブーツのバンドを加締め直して飛散したグリスを清掃すれば、車検には合格できます。
しかしそれだと、中のグリスの量も状態も分かりません。
現車には他にも「エンジンオイル漏れ」「冷却水漏れ」「負圧漏れ」があります。
IPCの時点でオーナーにご意向を伺い、グリス漏れを起こしたドライブシャフトは今回オーバーホールすることに決めました。
アウターブーツには、いわゆる分割接着型が使われています。
時短になるのですが、FTECでは使わない部品です。
現車はスーパーストラットサスペンションなので、ブレーキとボールジョイントを分離してアップライトを丸ごと取外します。インナーブーツを捲ると、グリス漏れの原因箇所を観察できます。
シャフトAss'y を取外し、古いグリスは全量排出して内面を拭きあげます。
瑕疵の有無は整備士の指先が教えてくれます。
古いインナーブーツの表面には、亀裂が走り始めています。
バンドのカシメ直しと清掃でお茶を濁しても、いずれ破れて交換が要ったでしょう。
分割接着型のアウターブーツはインナーブーツより新しいので、表面に亀裂はありません。しかし接着線の裏面に着目すると、表面しか接着できていない箇所があることが判ります。
グリスが付着すると充分な接着強度を得られないことは、誰にでもわかります。そのため、作業にあたる人はブーツ内のグリス量を少なくしがちであることも見逃せません。
等速ジョイント(CVJ = Constant Velocity Joint)からシャフトを抜く前には、可動範囲に引っ掛かりやゴリ感が無いことを確認します。
分解洗浄したら、過加熱による焼色が無いことも確認しましょう。
単体となったシャフトは、浮き錆を落としてから両端のセレーションをマスキングして、防錆塗装を施します。
ドライブシャフトを組み立てる準備が整いました。
CVJのボールは内外12個で全部同じ仕様ですが、混ぜないと決めています。
これはおまじないみたいなものですが、厳守している習慣です。
最適なグリスの詰め方には諸説あるのですが、稼働条件を意識することが肝要です。
軸心から外に向かう遠心力と、摺動による温度上昇などがそれにあたります。
ブーツバンドは、前進時の回転の下流側に折り返して加締めます。
実はこれも、科学的根拠なしに厳守している習慣です。
余談ですが、リビルドのドライブシャフトには写真中央のマスダンパーが付いていないことがあります。トヨタが新車に要らない部品を付けるはずがないので、もし古い部品が修理可能な状態なら、時間と手間をかけて直した方が長持ちする、というのがFTECの考えです。
ハブに嵌合するシャフトの先端は、清掃して付着したデブリを取り除きます。
アップライトとブレーキのボルトナットは、清掃点検して再使用します。
ハブベアリングのシール面は、新しいハブグリスを使って清掃します。
脱着が原因でグリス漏れを起こす、などということがあってはいけません。
ハブとブレーキローターの嵌合面も清掃します。
効果を体感できるかどうかより、分解する前より良い状態で組み上げることに焦点をあてるのが、旧車メンテナンスの要諦であるとFTECは思います。
防錆のために、モリブデングリスを極薄塗りしています。
このときも、遠心力と温度上昇を意識しましょう。
セリカのドライブシャフトブーツ交換は、これで完了です。
この記事で紹介した作業は、前輪を駆動するすべての車種に共通する標準作業であり、FTECは基本的に全車同じ考えに基づいて整備にあたっています。
スーパーストラットサスペンションは関節が多いので、ボールジョイントにガタを発見したら都度交換する必要があります。健全なボールジョイントに無理な力を加えないように分離することも、旧車メンテナンスにあたる整備士が身に付けなければならないスキルだとFTECは思います。
おまけの動画は、T200系セリカがデビューした当時のプロモーションビデオ。
価格よりイメージを優先した構成が、当時の世相を表しているように見えます。
次回は、このセリカの別の液漏れを修理する記事です。
一般的な需要があるのか少々疑問ですが、変わった方々はどうぞお楽しみに。