埼玉県狭山市の自動車整備工場、FTECコーポレーションが、主に特殊整備にカテゴライズされる業務内容を紹介するブログです。

SC430のAFS修理

レクサス SC430(UZZ40型)平成19(2007)年式です。
AFS(Adaptive Front lighting System)を修理します。


走行中に「AFS OFF」警告灯が点灯する症状があります。インストルメントパネルに橙色の「AFS OFF」表示があるとき、AFSは機能を停止しています。オーナーから提供された情報では、1時間ほど走行すると点灯状態となり、エンジンを一旦止めると消灯状態に戻るが、その後の走行では数分から数十分で再び点灯状態になる、とのこと。


AFS(アダプティブ フロントライティング システム)とは、ヘッドライトの照射軸を車速と転舵に合わせて偏向させることで、夜間の前方視界を改善するシステムの呼称です。2000年(平成12年)頃、エウレカの資金調達によって設計開発が進められ、基本仕様が決定しました。その後2003年(平成15年)には、このAFSを搭載したモデルが発売されています。

.
SC430が搭載するのは、トヨタ社内でインテリジェントAFSと呼ばれるものです。これは最も一般的な、ステアリング操舵角と車速センサーから情報を得たAFSコントロールモジュールが、照射軸を左右に偏向させる設計です。偏向量は左右不均等で、下の図のように設定されています。


SC430の場合、これに加えて上下にも偏向させる機能があります。
こちらは、積載量や乗車人数によって生じるピッチ方向の姿勢変化を相殺するもの。
前後のサスペンションに装備した車高センサーからの情報をAFSコントロールモジュールで計算して、光軸を上下に偏向させます。このときの偏向量は、左右均等です。



また現車は、全長ねじ式の車高調整式ストラットによって低い車高にセットされています。
このような場合では、トヨタ純正サービスマニュアルの数値は読み替える必要があります。


スキャナーを接続して、大量に蓄積されていた故障コードを記録後に消去します。
そのまま「AFS OFF」が点灯するまで走行テストを実施して、直後に故障コードを再点検。すると、原因を特定するための手掛かりが得られます。


改造車でなければ、トヨタ純正のサービスマニュアルに記載されている診断チャートに添って点検を進めれば交換すべき部品を特定できます。しかし現車は車高のセットが純正とはまったく違うので、サービスマニュアルを鵜呑みにしていては直りません。


ライブデータを表示させてAFSコントロールモジュールの入出力信号を確認し、1G状態における基準値に合わせてセンサーアームの角度を変えます。乗車や積載による車高の変化量はフロントよりもリヤの方が大きいので、この調整は主としてリヤ側で行います。


リヤ側のセンサーアームを限度いっぱいに調整しても、現車の車高では走行中に異常判定の閾値を超える可能性が出てきました。静的な状態で再点灯しないだけでは、修理できたとは言えません。


リヤ側の車高センサーとアームのリンクを取外しました。
よく見ると、アームのガイド部に物理的な破損があります。



不適切な調整と変更された車高によってアームが突き上げられると、車高センサーは破損します。トヨタにはこうした事態を想定する義務はないので、当然ながらサービスマニュアルに対処方法は載っていません。この場合、壊れた車高センサーを考えなしに新品に交換すると、すぐにまた壊れて同じ症状が再発するという破目に陥ります。



現車の車高で走行中に異常判定の閾値を超えないようにするには、調整限界を変更する必要があります。ロアアームに装着されるブラケットを加工するのが最もリスクの少ない方法だと判断し、写真のように調整しました。




この状態で走行テストを実施して、新たに施した調整の効果を測定。
すると、「AFS OFF」警告灯が点灯しました。

右側のヘッドライトの光軸が、右方向に偏向したまま中立位置に戻らない症状があります。


定石どおりにスキャナーで再点検すると、DTC B2413 右スイベルモータ異常 の故障コードを検出。スイベルモータは光軸を左右に偏向させるための動力を担う部品で、ヘッドライトとは不可分の構造になっています。


光軸を上下に偏向させるレベリングモータには個別の部品番号があり、単体で部品供給を受けられます。しかし左右に偏向させるスイベルモータはヘッドライトAss'y の一部と位置づけられており、単体での部品供給を受けることができません。



ヘッドライトAss'y は、比較的高価であるにもかかわらず経年劣化が目立つ部品です。片側だけを新品にすると、まるで事故車のような顔つきになってしまいます。

では、左右セットで新品に交換すれば解決か?といえば、そうとも限りません。
現車のヘッドライトは、純正のHID式からLED式に改造されているからです。

つまり、AFSが故障した原因に改造が関わっている場合、まず「AFSが正常に動作する改造」に更新しなければ、新品のヘッドライトを再び壊しかねないということです。

また、現段階では正常に動作している左側ヘッドライトを、経年劣化を理由に交換するのは修理屋としていかがなものかという思いもあります。


この段階でオーナーと話し合い、「現品修理を優先して、FTECが必要と判断したら左右セットで新品アッセンブリーに交換する」、という条件をご提示いただきました。

挑戦の機会をくださったオーナーに、心から感謝いたします。



ヘッドライトAss'y を取外して、改造の内容を把握します。

純正HIDから社外LEDへの変換は、カプラーオンのアダプターを介して行われています。球切れ警告などの誤作動対策には有効な方法ですが、AFSの構造にとって理想的でないことは明らかです。



ヘッドライトのケーシングは、気密を保てなければなりません。
外気が通るとライト内部の湿度が上がり、レンズの内側が結露するからです。


スイベルモータが右一杯に光軸を偏向させたとき、限度を決めるタブがあります。
このヘッドライトは、そのタブの破損で光軸を中立に戻せなくなっていました。

タブが破損した原因の一端は、純正HIDから社外LEDへの変換アダプターがAFSの稼働部分に干渉したことだろうと推察します。偶然の経年劣化だった可能性もゼロではありませんが、この部分の改造方法は見直しが必要と判断しました。


バルブ交換用のキャップ(灰色の丸い部品)が、3箇所のタブでケーシングに嵌合しています。キャップ側の嵌合面には、気密部材が付属します。

キャップの脱着に支障がなく、気密部材が健全に保たれる位置を探り、ケーシング側を加工して変換アダプターを外に出しました。

内側に残す配線の量は、AFSの可動範囲を確認しながら決定します。

ケーシングの加工箇所と変換アダプターの勘合部には、配線の途中に位置を固定するためのクリップを設け、最少量のΦ5ブチルテープで気密処理を施します。


修理したヘッドライトを車体に取付け、スキャナーでAFSの動作を確認します。


これが、トヨタのインテリジェントAFSが、正常動作する様子です。



右側ヘッドライトで、純正のHID式からLED式に改造した状態におけるAFSの正常動作を確認できました。これを受け、同じ処置を左側ヘッドライトにも施します。

すでに述べた通り、スイベルモータの可動範囲は右の方が左よりも広いので、右側ヘッドライトで検証できた処置を左側ヘッドライトに施すことに、躊躇いはありません。


静的な状態で故障コードが検出されなくても、走行中にAFSコントロールモジュールが異常を検知すれば、再び「AFS OFF」が点灯します。現車は車高のセットが変わっているのだから、その状態で走行中に車高センサーの出力数値が異常判定の閾値を超えないように仕上げなければなりません。



すでに静的な状態でオールシステムDTCスキャンを実施しても、故障コードが存在しないことが判ります。データストリームでライブデータを比較し、前後の車高センサーの出力数値のバランスを再調整することに決めました。


トヨタの車高センサーには、4Pカプラーと3Pカプラーが存在します。
動作原理は同じなので、単体テストの要領で調整すべき位置を割り出せます。





サーキットテスターでセンサーアームの角度に見当をつけ、データストリームで1G状態における前後車高センサーの出力数値を比較しながら調整します。

前述の通り、現車は変移量の多いリヤ側のセンサーアームを加工して調整済みの状態です。調整後に繰り返し行った走行テストでも、リヤ側の車高センサーに関連する故障コードは出ていません。

これらの事実を総合的に評価して、フロント側の車高センサーを調整することで1G状態の出力数値を揃えることに決めました。



レクサスSC430のインテリジェントAFSを修理する記事は、以上です。
現車には随所に改造が施されていましたが、今後は純正同様に走れるでしょう。


4.3リッターV型8気筒の3UZ-FE型エンジンは出力特性が円滑で、2,000rpm台でシフトアップしながら都市交通の流れをリードできます。純粋なガソリンエンジンでこれほど甘美な体験ができると、日本に生まれてよかったと心から思います。

いつまでも健全に運行され、ひとりでも多くの人に感動を届けられますように。