埼玉県狭山市の自動車整備工場、FTECコーポレーションが、主に特殊整備にカテゴライズされる業務内容を紹介するブログです。

シトロエンのバッテリー交換

シトロエン C4です。
始動不良で入庫しました。

STARTを押しても、反応がありません。
セキュリティシステムは機能しており、イグニッションONまでは正常です。


オーナーの駐車場から、積載車で入庫です。
早速バッテリーチャージャーをクランプすると、電圧は12.5V。

.
10A以下で、しばらく補充電。
その後13Vに昇圧してSTARTを押すと、あっさりと始動できます。



始動後の制御電圧は14.7V、BSIは14.88Vと認識しています。


チェックエンジンライト(=MIL)が点灯しています。
バッテリー不良の線が濃厚ですが、点灯の原因は記録しておく必要があります。



全システムスキャンを実施、故障コードを確認。
大量の故障コードが、様々な領域で記録されています。

ざっと並べてみますので、自分でスキャナーを操作しているつもりでご覧ください。











たくさんの故障コードがありますね。

故障を検知するのは、車載コントロールユニット群です。
電源に不具合があれば、正常を故障と判定することもあります。

だからこの段階で故障コードを見ても無駄

かというと、そうでもありません。

ここで記録した故障コードは、電源の不具合が波及する領域を知る手掛かりになるのです。

担当したクルマを最後まで診るために、使う使わないに関わらず、取得したデータはあとで利用しやすい形に整えて記録に残す。これを習慣にしましょう。


大量の故障コードを一旦クリアして、バッテリーチャージャーを分離します。
シトロエンC4ピカソは、車載状態ではバッテリーの−端子にアクセスできません。

整備記録簿を遡り、バッテリーを交換することに決めました。

それだけで解決できると考えたのではなく、バッテリー交換後に始動不良の症状が続いても、車載コントロールユニット群があてになれば診断が容易になる、と考えて決めたのです。


改めて、シトロエンC4ピカソのバッテリー交換手順を見てみましょう。
始めに、バッテリーの+端子を外し、次にコントロールユニットを外します。

-端子は、フロントガラス下端から遥かに奥まったファイアウォール寄り。
バッテリー本体を手前に引き出さなければ-端子は外せません


シトロエンC4のバッテリー端子はクリップオン固定式なので、工具を使わずに分離と結合ができます。重いバッテリーを苦しい姿勢でハンドリングしなければならないので、この端子は整備士にとってありがたい仕様です。




この整備を実施した時点で、古いバッテリーは6年前のものでした。
条件が良くても、このくらい使ったら交換が無難でしょう。



ふたつの端子はアルミ製で、析出物が付着しています。
酸化したアルミは通電を障害するので、磨いてから取付けます。



ステンレスのブラシで研磨しています。




端子の嵌合面にグリスを塗布して、酸化に対する耐性を上げます。
バッテリーを降ろした時しか手が入らない場所なので、できることはやっておきたい。




新しいバッテリーが、搭載できました。

見えるように撮った写真で、この有様。
実際には、ほぼ全体がフロントガラスの下です。


モジュールを固定するナットが、ひとつ欠損していました。
フランジ付き、かつセレート付きのナットを選んで、確実に固定。





エンジンが、正常に始動できることを確認します。
全システムスキャンを再実施、バッテリー交換後のデータを記録します。


・P0562 コントロールユニットの電源電圧が低すぎる

この故障コードが気になったので、始動時のライブデータを確認します。

KOEO(= Key On Engine Off): 12.27V
START : 10.05V
KOER(= Key On Engine Run) : 14.87V

スタートの瞬間の電圧降下が閾値を超えると故障判定されるのか。



この写真の条件であれば、何度始動を試みても故障コードは検出されません。

故障検出のアルゴリズムや閾値の設定は、自動車メーカーしか知り得ないことで、正規のサービスマニュアルにも記載はありません。プログラムアップデートで、これらが更新されることもあるでしょう。

今回の整備の目的は、確実なエンジン始動を保証することです。
点検の結果、症状の原因はバッテリーの衰損であり、再発の恐れはないと結論付けました。


サービスリマインダーをチェックして、カレンダーを合わせます。
GPS連動のアクセサリーばかりとは限らないので、注意しましょう。
細かいことの積み重ねは、いつかオーナーにも伝わります。


ひとくちに「バッテリーの交換」といっても、診られる箇所はたくさんあります。
費用を負担したのに、すぐまた症状が再発したらオーナーは落胆するでしょう。

「単なるバッテリーの交換」

であっても、オーナーの期待を裏切らないよう心掛けたいとFTECは願っています。




シトロエンC4ピカソは、日本市場では希少車といえる登録台数です。

前衛的なデザインが奏功して、いま見返しても古さを感じません。

これが好き。そう言える喜びを知っているオーナーに、選んでほしいクルマです。