埼玉県狭山市の自動車整備工場、FTECコーポレーションが、主に特殊整備にカテゴライズされる業務内容を紹介するブログです。

スペーシアの12ヶ月点検

スズキ スペーシア(MK32S)です。
12ヵ月点検とアクセサリーの取付けで、初入庫しました。

クルマ全体の状態を把握して、オーナー所望のアクセサリーを取り付けます。


オーナーの要望は、

    □ 現状販売で購入したばかり

    □ 過去の整備履歴がわからず不安

    □ ヘッドライトが暗すぎる

    □ バックカメラを追加したい

    □ ルームライトを明るくしたい

などです。

法定12ヵ月点検を優先し、アクセサリー類で総費用を調整します。

早速、見ていきましょう。



リジッドラックに掛け、四輪のハブベアリングの遊び量を点検。
問題なければ、全タイヤ&ホイールを取外します。


融雪剤の散布地域から来たクルマなので、首都圏のクルマよりも錆が目立ちます。
ちなみに現車の積算走行距離は、75,000㎞。

縁石にぶつけたり溝に落ちたりした痕跡が無ければ、ひとまず安心できます。



ロアボールジョイントのブーツは、社外品に交換してあります。
ワイヤーロックに変わっていますが、これはFTECでもやることがあります。

ボールジョイントにガタつきはなく、健全な状態に保たれていました。




ラジエターホースのバンドに、赤錆が吹き出しています。
これも、雪国出身ならではの現象。
表面だけの問題で、機能に影響は出ていません。


リヤサスペンション周り。
スプリングに錆なし、ショックアブソーバーに漏れなし。


燃料タンクのフィラーホースに、バンドがかかっていません。
どこかで、タンクを降ろしたことがあるのでしょう。
過去に、ポンプの交換などをしたのかもしれません。


過去の整備状態が不明である場合、油脂類は一気に交換してしまうのが基本です。
今回はブレーキパッドの残量が心許ないので、その整備を最優先項目とします。





ブレーキパッドは交換、バックプレートに合わせるシムは清掃して再使用。
融雪剤の悪影響を想えば、シムもセットで交換したほうが良いことは確かです。

下図の赤矢印の部分で、24を選ぶか23を選ぶかという問題です。
今回は予算分配の観点から、23のパッドのみ交換を選びます。



パッド交換でシムよりも重要なのが、上図の赤丸印の、リテーナーです。

ディスクブレーキのキャリパーは、パッドを押す動作しかできません。
ハブやディスクが健全なら、リテーナーの差はペダルタッチの差に現れます。

現車のキャリパーは、ピストンひとつの片押し式。
スライダーは、ピンとサポートの両方を清掃してグリスを入れ替えます。






後ブレーキドラムを外して観察。
ダストはいくらかあるものの、とても綺麗な状態です。

前オーナーの運転の傾向や過去の整備の程度を、窺い知ることができます。回生ブレーキが効く車種の後ブレーキは、シューの消耗が少なくなりがちなことにも留意しましょう。



ホイールシリンダーからのブレーキフルード漏れの有無を確認。
ドラムからダストを排出して、摺動面をペーパー研磨します。



バックプレートはケミカル洗浄。
古いグリスをダストもろとも洗い流して、最小の量でグリスアップします。

グリスの量は、多すぎるとドラム内のダストを吸着するので有害です。


ケミカル洗浄の際に濡れたブレーキシューは、乾燥後にペーパー研磨します。
シューの表面がガラス状になっていなければ、深く削る必要はありません。
今回使った研磨布は、#150のアルミナです。


ドラム側の摺動面も、同じ研磨布で仕上げます。

「立てて一周、伏せて一周」

これで、写真のようなクロスハッチが得られます。


    □ バックプレートの清掃と給脂
    □ ブレーキシューとドラムの摺動面の手仕上げ

これらを実施することで、シューとライニングの隙間調整が楽になります

後になって片効きや引き摺りが判明しすると、ブレーキ調整をやりなおすことになります。それを想えば、事前にやるのが当然だと理解できるはず。

また、必要な個所を漏れなく最小限の量のグリスで仕上げたブレーキは、自動調整機構が正確に働きます。このことは、完成車をお引渡した直後だけではなく、次の定期点検までの安全運行を保証するうえでも重要だとFTECは思います。



さて、法定12ヵ月点検の目途が立ったので、アクセサリーの件に移りましょう。

冒頭のオーナーの要望を、覚えていますか?

    □ ヘッドライト暗すぎる
    □ バックカメラを追加したい
    □ ルームライトを明るくしたい

でしたね。

純正のバルブは、H4型の電球です。今日の常識からすると、容認できない暗さ。
PIAA製のLEDバルブに交換します。この製品は、もちろん車検対応品です。



写真では判りづらいのですが、透明なレンズの表面に、黄土色のかさぶた状の幕が付着しています。過去に施工したコーティングが劣化した状態らしく、見た目がみすぼらしい。

ケミカルとコンパウンドで、軽く修繕します。この修繕はいちばん簡単な方法で、オーナーが洗車のついでに挑戦してもリスクが少ないところが美点です。

レンズの修繕方法は、そこにかけられる費用によって選択するのが最善です。
軽自動車の場合、新品の価格が費用の上限になることは言うまでもありません。





スペーシアMK32Sのヘッドライトは、マルチリフレクター式。
スモールライトの電球が点灯すると、ライト全体が電球色に灯ります。

LEDライトを点灯させてもスモールライトが消えるわけではないので、光の色を揃えることに。極性のない、汎用のT10型LEDバルブを装着します。





ルームライトは、夜でも乳児のお世話に十分な明るさを確保することを目標にします。
ライト内の形状に合わせて設計された基盤をもつLEDに、すべて変更します。






ルームライトに採用したのはサードパーティ製のLEDでしたが、望外の明るさでした。
この手の商品は玉石混交なので、良いモノにあたると嬉しいですね。


最後に、バックカメラを取り付けます。
純正然とした仕上がりに持っていけるよう、作業領域を確認します。


ここも予算の都合で、モニター兼用のステレオヘッドユニットは現状維持です。
ヘッドユニットはとっくに型落ちになっており、適合するバックカメラも廃盤です。


配線の処理は手慣れた感じですが、エレクトロタップが目立ちます。
FTECで、新たにエレクトロタップを付けることはありません。


後継機種を型番で追い、互換性が期待できるカメラの品番を特定しました。
メーカーの適合保証は得られませんでしたが、それは他のカメラでも同じです。


配線図の通りに接続したカメラが、機能しませんでした
ヘッドユニットの配線に、一部改造が施されていたことが原因です。

適合保証なしで購入したカメラなので少々焦りましたが、原因が分かればどうということはありません。画質も耐久性も、サードパーティ製のカメラよりは上でしょう。



純正然とした仕上げが目標なので、配線を露出させない方法を採ります。
大まかな配線のルートを、

「ヘッドユニット」

「ダッシュボード奥」

「左側Aピラー」

「ルーフライニング裏」

「バックドア」

と決めて、内装を分解します。



このバックカメラは純粋に、駐車のアシスト用です。
スペーシアMK32Sの場合、最適な場所はナンバープレート周辺です。
サービスホールのグロメットを加工して、雨滴がドア内に浸入しないように固定します。


配線のルートを検討するとき、ヘッドユニット側からだけでなくカメラ側からも考えると、装着後の信頼性を高めることができます。

開閉で繰り返される衝撃を考慮して、なるべくバックドア内に余分な配線を固定しなくても済むようにすることは、基本中の基本です。

    □ 雨が降ってもカメラレンズに水滴が残りづらいようにする
    □ 配線を伝って雨水がドア内に浸入しないようにする

そういうことを考えながら作業にあたるのが、FTECの整備士です。


エアコンのピュアフィルター。ついでに交換。


接触不良の原因になりやすいエレクトロタップ。
紫色の配線の太さが、全然違うことが分かりますか?

このままでは、切れたり抜けたりして動作不良を起こす原因になります。
スプライスで結合してから、熱収縮チューブによる絶縁処理を施しました。






カメラの配線は、純正のグロメットを通して、純正の配線と同じ形状に固定します。
弛みすぎてもいけませんし、ピン張りはもっといけません。

純正の配線が描く形状には、長期間開閉を繰り返しても不具合を起こさない工夫が隠されているのです。純正然とした仕上げとは、見た目だけではなく機能の要件でもあるのです。






バックカメラの追加作業は、最終的にこのような仕上げになりました。
見た目も操作性も、純正然とした仕上げを達成できたと自負しています。
耐久性に関しては、何年か後に答え合わせができるでしょう。



スズキ スペーシア(MK32S)の12ヵ月点検の記事は、以上です。

予算を分配する際の優先順位の決め方や、アクセサリー類の商品を選択する際の要点、配線を施工する際に心掛けていること。これらを通じて、FTECの価値観を感じていただけたら幸甚です。