埼玉県狭山市の自動車整備工場、FTECコーポレーションが、主に特殊整備にカテゴライズされる業務内容を紹介するブログです。

C1500のウォーターポンプ交換

シボレー C-1500(1991年式)です。
ウォーターポンプを交換します。



エアコンの整備で入庫したのですが、整備前点検でエンジンの冷却水漏れが発覚。
ベルトトレーンを刷新するメニューに、冷却水漏れの修理を織り込みます。

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現車は、350cid(5.7リッター)V8エンジン、L05型を搭載しています。
燃料噴射装置はTBI、1989年以降のサーペンタインベルト仕様。


1991年当時の日本は好景気に沸いていたので、大量の並行輸入車が市場に溢れていました。

TBIのL05型エンジンは、このC/Kトラックの他にも、カマロ、トランザム、Gバン、K5ブレイザー、タホ、サバーバン、カプリス、ロードマスター等、幅広い車種に搭載されています。ごく少数ではありますが、キャデラックのブロアムやハマーH1も、初期モデルはL05型エンジンの搭載車です。

日本でも、お馴染みのエンジンですね。


C/Kトラックはエンジンルームがとても広いので、作業手順を写真に撮るのも簡単です。
GMスモールブロックのウォーターポンプ交換の要領を、丁寧にご紹介いたします。

今回はエアコンと同時に行う修理なので、ファントムグリルも外します。
いちばん前方に見える熱交換器が、クーラーコンデンサー。


コンデンサーの端が傷んでいるのが見えます。


建築用の長いビスが使われています。無用な先端は切除します。


レゾネータとエアクリーナを外したところ。

画面左の黄色い配線は、サブウーファー用の電源線。
ヒューズを介してはいますが、大電流が流れるので手直しが必要です。



異物の侵入を防ぐために、エアクリーナを再び乗せています。

冷却ファンの軸が、ウォーターポンプの軸になっています。
ファンカップリングの手ごたえを確認して、ファンAss'yで取外し。




アッパーホースの結合部。この下がサーモスタットです。

サーモスタットとパッキンは、当然交換。
アルミダイキャストのホースネックに交換します。

メッキ仕上げのホースネックは、メッキの寿命が部品の寿命を決めてしまうので、FTECでは非推奨としています。


ウォーターポンプをエンジンブロックに結合するボルトが、積年の汚れに埋まっています。ケミカルとスチームで、再び洗浄を行います。



だいぶ綺麗になりましたね。

高温高圧洗浄は、作業域を清潔に保ち整備の確度を向上させます。

写真手前には、ラジエターがあることを意識して洗浄します。
コアはとても柔らかいので、誤って洗浄ノズルを向けると損傷します。

また、あたりまえのことですが、濡れてから水漏れの点検をすることは不可能です。
エンジンルームが埃まみれでも、冷却水漏れはドライな状態で点検しましょう。



ラジエター本体は、冷却水漏れが無いことを確認したうえで、再使用することに。
現車のラジエターは、幅34インチの仕様。

同年式のC1500には、仕向地によって3種類のラジエターが装着されていました。
現車の幅34インチは中間のサイズで、他に41インチと26インチがあります。

ラジエターの大型化を要望されるケースがありますが、FTECでは滅多に変更しません。ファンとシュラウドが適切に機能する34インチのほうが、41インチに替えてバランスの崩れたシステムよりも明らかに性能面で安定しており、優秀です。


ウォーターポンプは、鋳鉄のエンジンブロックに鋼のボルトで結合されています。

ボルトが折れると、作業時間は3倍に伸びます。

折れたボルトを除去してねじ山を修正するには、通常のウォーターポンプ交換より広い作業域が必要になるため、ボルト周辺の補器やブラケットを取外すことになるからです。


幸い、現車のウォーターポンプはねじ山部の密封が保たれていたため、ボルトを折らずに取り外すことができました。


ウォーターポンプを取り外すと、タイミングカバーが露わになります。
ケミカルとスチームで、再洗浄。




クランクプーリーを外せば、タイミングカバーも交換できます。
先述の通り大量生産されていたエンジンなので、社外品には事欠きません。

ただ、品質が玉石混交なので、純正以上に信頼できる社外品に行き当たるかは、やってみなければ判らないというのが実状です。

脱線しすぎるといつまでも纏まらないので、今回はこの領域の作業は見送ります。


新品のウォーターポンプを正確に組むために、エンジンブロック側の勘合部を整えます。
固着したガスケットを、最小限のケミカルを併用してスクレイパーで除去します。


小判型のガスケットが当たる左右の面を、できるだけ広く仕上げます。
仕上面の精度は、指触で確認します。

実際の現場は、写真で見るほど作業域に余裕がなく、テストインジケーターなどは到底使えません。人間が指の腹で金属の表面をなぞって検知できる凹凸の精度は、1/100ミリ(㎛)単位です。ゆっくりと、かつ適切な圧力でなぞることで、より繊細な凹凸を検知することができます。

指触の精度を侮らない心掛けは、整備士の指先を汚れやケガから守ることにもつながります。


ウォーターポンプを固定していた、鋼のボルト。
デブリを除去して、金属の性状を確認します。



腐食による虫食い状態が認められなければ、再使用します。

純正品より性能の良い社外品のボルトには、なかなかお目にかかれません。

こと材質においては、アメリカより高性能なボルトを日本で見つけることは不可能です。


新旧ウォーターポンプを並べて、形状を比較。
ハブ面のオフセット量には、特に注意が必要です。


新しい方には、サービスホールとプラグが付いていますね。


ハブ面のスタッドボルトは、移植が必要です。


サービスホールとプラグ。
切削加工によるバリや切粉の付着がないか、念のため確かめます。


ボルト穴は、タップで修正します。
エンジンブロックは鋳物なので、異物を嚙み込んだら割れます。
正確なトルク管理のために、必ず実施しましょう。



指触は、繰り返し行います。
タップを抜いた後の、微粒の付着にも注意が要ります。


正しい角度で奥まで締め込めるか、ボルトを手回しして確かめます。
雄ねじも雌ねじも、新品ではないことを意識しましょう。

ここは、特に念入りに。
もちろん、確かめた後には、もういちど指触です。


新しいウォーターポンプをエンジンブロックに結合します。
締付トルクは、正規数値の上限に合わせます。


ファンカップリングを装着するハブ面の、スタッドボルトを移植。
再使用するので、ダブルナットで抜きます。



他のボルトと同じようにねじ山を修正して、緩み止めを塗布して締め込みます。


新しいウォーターポンプのハブ面が、整いました。


新しいウォーターポンプのサービスホールは、使いません。
プラグを脱脂してから、シールテープを巻いて締め込みます。


新旧ラジエターロアホース。
形状と角度を合わせて、接続口にシリコングリスを塗って装着します。

無駄な応力がかかった状態でホースバンドを締め付けると、思わぬトラブルを誘発します。
フレームと擦れる部分のスリーブを移植して、自然な形状を損なわないように装着します。




クーリングファン側のハブ面は、スコッチブライトで清掃します。
ここにデブリが付着していると、ファンが綺麗に回りません。


プーリーの嵌合面も、同様に仕上げます。
今回使用したスコッチブライトは、#240です。



新旧アイドラープーリー。
外径は全く同じなのですが、断面形状が違います。

左のプーリーのほうが、彫りが深いのが分かりますか?


新旧プーリーの断面形状の違いによって、軸心のワッシャーが移植できません。
ベアリングにダストシールが付いているので、省いても良いのですが・・・



一回り外径の小さいワッシャーを探して、合わせました。
これなら、極小のクリアランスでスムーズに回せます。

やはり、耐久性の面でも従前より優れていなければ、納得できませんからね。


□ ウォーターポンプ
□ アイドルローラー
□ テンショナー

これらが、新品に替わりました。
ベルトトレーンの作業は、これで一段落です。


続いて、サーモスタットを交換します。

ラジエターアッパーホースが結合される、ホースネックは新品に交換。

・ボルトナットの仕上げ方
・フランジ面の仕上げ方

いずれも、この記事で前述した通りです。
加えて此処の場合は、アース端子を磨いてから組むことにしましょう。




新しいホースネックは、アルミダイキャスト製です。
メッキ仕上げのスチール製よりも、はるかに長持ちする仕様です。



ラジエターアッパーホースも、ロアホースと同様に、応力を逃がしながら位置を決めます。


冷却水路を整えたら、すべての作業箇所を最終確認。
エンジン冷却水を給水して、エンジンを再始動させます。



暖機しながら冷却水を足し、ベルトラインに目を移してびっくり。
テンショナーが、明らかに異常に振れています。

見た瞬間には、装着しそこなったかと疑ったくらいの振れ。
よく観察してみると・・・


以下の3枚の写真で、原因がお判りでしょうか?

テンショナープーリーのベアリング

アウターレースとフランジが面一

ここには隙間が空いています

プレス成形のプーリーに、ベアリングが斜めに圧入されています。
ドリフトと油圧プレスで、奥まで圧入しなおしました。


シボレーのV8スモールブロックエンジン 350cid(L05型)の、ウォーターポンプを交換する記事は、以上です。

この記事で紹介しているボルトのねじ山や嵌合面を仕上げる要領は、アメ車のエンジンだけに用いる特別な手法ではありません。

FTECの標準作業であり、どこの国のどんなエンジンでも、同じ要領で仕上げています。


L05型のインジェクションシステム「TBI」は、インテークマニフォールドを変えずにキャブレターから乗せ替えられる構造でした。燃料ポンプの圧力も、キャブレターと同じで機能します。

シンプルな構造は維持費を安く抑えることにも役立つので、合理主義の国アメリカには今でも根強い愛好家がいます。

油まみれになってクルマを楽しむ人々が、日本にも増えるといいなと思います。

次の記事からは、エアコンの修理を解説します。