埼玉県狭山市の自動車整備工場、FTECコーポレーションが、主に特殊整備にカテゴライズされる業務内容を紹介するブログです。

ブロンコのシャシ整備・2

フォード・ブロンコ(1994)の シャシ整備、今回はブレーキを整備します。
走行時に発生している異音を念頭に、原因となり得る要素を取り除くことが目的です。



前回の記事に、走行テストの結果を列記しました。
加減速の瞬間に生じる異音、タイヤの回転と同期した異音。

ブレーキは、これらに関連する領域です。

また、現車のブレーキは、制動力の低下が顕著です。
ブレーキテスターで測定すると、後ブレーキの制動力は保安基準の下限付近と判ります。

異音対策の要点を押さえながら、一般的な点検と調整で制動力の回復を図ります。



後ブレーキのドラムが割れています。断面の錆びた性状が他の表面とまったく同じであることから、相当昔に乱暴な取外しをされたと推察できます。

走行時に応力の掛かる部分に、クラック等はありません。
異音と制動力の確保に集中して、今回は再使用する方針で整備します。



ドラム内に堆積したダストを排出して、摺動面を調えます。
脱脂後に#80の布ペーパーで、クロスハッチに仕上げます。
こうすることで、異物による摩耗や脱着の妨げになる段差を検知することができます。



ライニングは、脱脂後に角当たりしがちな部分を布ペーパーで落とします。角当たりする面積は、ハーフシャフトのアウターベアリングに生じている遊び量と、密接な関係があります。

リフトアップ時と接地荷重が掛かった時とでは、ドラムとライニングの位相が違うことに留意が必要です。間隔の調整も、新品ベアリングと同じでは引き摺りを発症してしまいます。



こちら側のドラム内は、なんだか油っぽく湿っています。
どこから何が漏れているのでしょうか。



ホイールシリンダーからのブレーキフルード漏れを疑いました。
しかし、ここは乾いた健全な状態です。




ハーフシャフトのオイルシールから、デフオイルが浸み出ています。
これは、制動力不測の原因になり得ます。

ベアリングの遊び量は常識の範囲内ですが、交換を検討すべき状態と言えます。





ケミカルとスチームで徹底的に脱脂して、現品から最大の性能を引き出すことを試みます。







左右とも同じ表面性状に揃える必要があるので、ライニングの調整研磨は「条件の悪い方に合わせて」やり直します。一度油を含んだ層は、全面を削り落とさなければ所定の制動力を望めません。



前ブレーキは、ベンチレーテッドディスク式。
ブレーキパッドがリテーナーと固着すると、引き摺りや異音の発生原因になります。



リテーナーを磨いて、最小限の量でグリスアップします。



キャリパーのピストンは、熱硬化性樹脂であるベークライト製。
金属よりも断熱性が高く、べーパーロック耐性が高い特長があります。

その反面、熱膨潤して引き摺りを生じる弱点があります。
引き摺りを生じるとその熱影響で更に膨潤し、最終的に完全なロック状態になります。



現状、引き摺りが無いことを確認して一旦組上げます。
異音の修理が主目的なので、ブレーキは保安基準適合をもって良しとします。




駐車ブレーキの解除レバーを修理します。
これは異音とは無関係ですが、ブレーキ整備の付帯作業として紹介します。



アメリカ市場を幅広く探しても、1994年のブロンコにボルトオンできる解除レバーは見つかりませんでした。現車の雰囲気を壊さないために、アーリーブロンコのレバーを流用します。



流用する部品の方が、取付け穴の径が小さいことが判ります。



純正は、打ち込みで固定する方式です。
より正確かつ強固に固定するため、レバーに雌ねじを切ります。



適当な長さに全ねじを切り出して、純正のロッドに仮固定。
最終的な解除レバーの位置を検討します。



アメリカのユーザーは駐車ブレーキを、日本人ほど頻繁には使わないそうです。
だからかどうかは判りませんが、フォード純正の解除レバーの位置は不便です。

純正のレバー位置は運転姿勢では目視できず、手探りで探し当てなければなりません。駐車ブレーキをかける時、もし大きなワークブーツを履いていたら、解除レバーごと踏んでしまいそう。

せっかくの機会なので、上から指を2本入れて解除レバーを操作できるように改善します。



純正のロッドから打ち込み固定のための先端部を切除して、高ナットを溶接します。
その先に全ねじを締め込んで、所望の位置に解除レバーがくるように調整します。




駐車ブレーキのペダルユニットを取外したついでに、ドームライト(= ルームランプ)のスイッチを交換します。現車には、運転席側の開閉にドームライトが反応しない症状があります。



ドアピンスイッチの破損が原因であることは、事前の点検によって確認済みです。
本来は、駐車ブレーキペダルを取外さずに交換できるのですが、現車は車体側の配線が奥で絡まっており、ドアピンスイッチにカプラーを接続する作業域が無い状態でした。


奥で絡まっていた車体側配線を整理して、溶加棒を使ってスムースなルートに修正します。



この位置にカプラーを引き出せれば、ドアピンスイッチの組み換えは簡単です。
ドアピンスイッチ自体のセット位置は、取付け後にドアを閉めれば自動調整されます。


ドームライトとドアライトの機能が、回復しました。
バルブは、LED式に変更されています。


駐車ブレーキ解除レバーの、新しい位置を決めます。
内装を何度も組んだりばらしたりする手間を、惜しんではいけません。もし、内装を組付けたら使いづらかったり、内装をスムーズに脱着できなくなってしまったら、改造は失敗ですから。




シートに座った状態で解除しやすく、駐車ブレーキペダルから充分離れた位置に納まりました。下の写真は座面付近から撮影したもので、着席したドライバーの目線からはダッシュボードロアカバーに沿った位置に見えます。これで、誤って踏み壊すことはないでしょう。


いま取り組んでいる整備の主たる目的は、車輛各部から生じている異音の修理です。

その過程で、ブレーキ周りの課題がいくつも明らかになりました。
この状態で継続検査を更新できましたが、ブレーキ力に余裕はありません。

オーナーと相談しながら、少しずつ改善を積み重ねていく。
脱着や分解のついでにできる改善は、都度実施する。

このような進め方で整備を繰り返して、車輛全体のブラッシュアップを図ります。
次回は、ショックアブソーバーの交換とデファレンシャルの点検を記事にします。