フォード ファルコン 1964年(昭和39年)式 です。
エキゾーストシステムの交換にともなった、改造と加工について紹介します。
エキゾーストマニフォールド(いわゆるへダース)からテールパイプまで、すべてを交換するメニューです。近所のショップが「ボルトオンできる商品を支給するから、取付けは簡単ですよ!」と持ち込んできた仕事ですが、案の定、そうは問屋が卸しませんでした。(笑)
まず、もともとついていたエキゾーストシステムを取外します。
サイレンサー(後方に見えるタイコ)の一部に腐りがありますが、パイプはステンレス製だし取り回しも総体的にみて合理的といえます。これはこれで、悪いマフラーではありません。
新たに取付けるエキゾーストマニフォールドも、取外した部品と同じ鋳鉄製です。
形状は左右バンクで対象になっており、最低限の容積にまとめてあるため補機類との干渉もなし。まずはこれをアイボリーの耐熱塗料で仕上げます。
「マフラーに白塗装」は、1960年代アメリカのレースシーンのトレンドに倣っています。
当時、「宇宙工学を転用した断熱性の高い塗料をマフラーにコーティングすると、排気効率が高まるうえ周辺の熱害が抑制できて具合が良い」、という若干怪しげな情報がサーキットを駆け抜け、トップチームが実際に採用したことで「効果はともかく、カッコいい」と評判になり、サーキット内外で大流行したのです。
トップチームのマシンは、白ペイントのあるなしに関わらず速かったのかもしれません。
アメリカ限定の流行だったところを見ると、彼の国流の自己満足だったのかもしれません。
真相がどうあれ、ファンの心に「カッコよかった」印象が焼き付いているのは事実です。
今回FTECで施工したのは、VHTのハイヒートコーティング。
NASA(NACA)とは多分関係ない塗料です、念のため。
装着した状態。プラグコードの選択によっても、エンジン全体のイメージが変わってきます。
エキマニ後方に取付けるマフラーの全体図。
アルスターパイプとフローマスターをバランスチューブで繋いだデュアルマフラーです。
この時点では、別の作業の段取りを考えながら作業するつもりでした。
「簡単にボルトオンできる」と聞いてましたから・・・
ダウンパイプは一体構造、以後は差し込み式 |
エキマニとの接合部。フランジの厚さは悪くない。 |
左右バンクをバランスチューブで繋ぎ、一体構造となっているダウンパイプ。これをエンジン側にあてがってみると、複数個所で干渉がおこり取付けられる見込みがありません。
右エキマニ出口。フロアパネルと干渉 |
左エキマニ出口。エンジンの幅と合っていない。 |
左バンクを前方から見る。出口は真下を向いている。 |
「ちょっと当たる」という程度の干渉じゃない。 |
この時点で作業を中止し、手配業者に状況確認を促しました。
モノを見るまでは装着可能と信じていたようですが、クルマの下でしばらくパイプを前後左右させたり裏返したりした結果、絶対無理だとわかった様子。
発注ミスか出荷ミスかわかりませんが、本来は返品交換するのが筋の事態です。
しかし、元請け側からは「この部品をどうにか付けて欲しい」と強い要望が・・・。
安いマフラーも高いマフラーも輸送コストは同じだし、しかたないか。
工法と工期の一切をFTECに任せていただき、加工と改造を施すことに決めました。
工法と工期の一切をFTECに任せていただき、加工と改造を施すことに決めました。
この種カッターは、円周方向のケガキが要らず便利。 |
ベンダーによる曲げ部分の、著しいやせ細り。 |
左右のエキマニに合わせるために切り刻みます。 |
連結部分は使えるだろうと見込んでいました。 |
テールパイプを仮組み。 |
切り刻んだフロントパイプを位置決め。 |
フロントパイプの後方形状。なんだか嫌な予感・・・。 |
真ん中にフローマスターを差し込んだ状態。ナニコレ? |
つかない部品をつけてくれと頼まれて、引き受けたのはFTECです。
こういう仕事は、想定外の事態を楽しむつもりで進めることが肝要です。
結局、フロントパイプは後方も切り刻むことに。 |
使える部分の方が少ないです。 |
さて、切り刻んだパイプは継がねばなりません。
曲がっているパイプの形状と方向を調整する方法は何種類もあります。
今回は、パイプを斜めにカット(ハス切り)し、各ピースを溶接していく、通称「切曲げ」で対処することに決めました。
赤線の位置をずらすと、曲げに捻りを加えられる。 |
パイプに焼き砂を詰めてバーナーであぶって曲げる、いわゆる「手曲げ」信者たち。
たしかに、単一形状のパイプで流量を比較した場合は、手曲げの方が有利になります。しかし、切曲げには「手曲げでは不可能な複雑な形状を実現できる」という利点があり、それが実際の排気効率を逆転させることが現実にあるのです。
バーナーであぶるにせよ、ベンダーで曲げるにせよ、パイプには「つかみしろ」が必要です。
つかみしろは切除して、曲げたパイプは結局溶接しなければなりません。
「曲げてひねる」となれば、細かく切って溶接で継ぐか、細いパイプに替えねばなりません。
そして、曲げたパイプの断面積が広くなるのは、これらのうちでは、切曲げだけです。
テールパイプも、まるで使い物になりません。
想定の範囲がだいぶ拡がっているので、もはや驚きはありませんが。
ベンダーの品質によって、痩せの程度は変わります。 |
もとの曲げ箇所は痩せが酷く、加工しづらい状態です。 |
エキゾーストマニフォールドとの接合部。
材料と化した元のパイプが、フロアと一定の間隔を保って並行になるように修正。
高品質のベンダーで曲げたパイプは、ここまであからさまにやせ細ったりしません。
これなら、切曲げの方が排気効率が良さそうでしょう?
パイプ内側への影響を確認。溶接条件を微調整します。
このファルコンは、スティックシフト(4速マニュアルトランスミッション)装着車です。
クラッチオペレーティングシステムを避けてパイプを取回す必要があります。
いかがでしたか?
全部最初からワンオフした方が、安くて綺麗に仕上がったのではないか?
・・・そういう疑問が湧くのも道理です。
しかしながら、お客様のご要望にお応えすることがすべてのサービス業の原点ですから、本件についてはこの対処法が最適だったと結論付けさせていただきたい。
このクルマにとってお客様は、ドライバーでありデザイナーであり、スポンサーでもある。
FTECコーポレーションは、必要とされる技術を提供すべく、精進をつづける所存です。