三菱ジープ J59 (1986年式)です。
車検整備で入庫しました。低回転域でゆるく加速するときに、エンジンが息つきを起こすとのこと。
3速と4速で不調の状態を維持するとキャブレター側にバックファイアを起こします。
これは混合気が薄く、点火エネルギー不足でタイミングが不適切な場合の典型的な症状。
継続検査はアイドリングしか評価しないので、エンジンの調整が問題のドライバビリティにどんな影響を及ぼすかを確かめながら、車検整備を進めることに決めました。
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三菱J59は、1953年(昭和28年)から生産された民生用日本製ジープの末裔で、
・ 4速フロアシフト
・ ソフトトップ
・ 4人乗り
を特徴とし、G52B型 直列4気筒 SOHC ガソリンエンジンを搭載しています。
その最大出力は100PS/5,000rpm、最大トルクは16.5kg-m/3,000rpm。
ローギヤードで発進も楽なわりには、比較的高回転型のエンジン特性です。
まず最初に、全ブレーキドラムを取り外し、ライニングの残量やブレーキオイル漏れの有無などを確認。ホイールシリンダーは全部で6個、すべてブーツの間から点検します。
タイミングライトとドエルタコテスターを接続して、点火装置系統を点検。
ボンネット裏のコーションラベルと照らし合わせると、アイドリング回転数が髙めです。
また、ディストリビューター内のコンタクトポイント不良も判明しました。
キャブレターはオーナーの息子さんの手でオーバーホール済み、とのことなので、点検はインテークマニフォールド周辺の気密確認のみに留めます。各アジャストスクリューの先端が健全であることを確認した上でエンジン調整を開始。
ディストリビューターのバキュームアドバンサと、キャブレターのセカンダリーダイヤフラムに接続するバキュームホースに損傷があったため、両方をΦ6シリコンホースに交換。
ディストリビューターキャップは端子を清掃して点検、ローター側も同様に処置。
ポイントはコンタクト面の荒れが顕著だったので、他の部品待ちの間に現品を修正。
テストの結果、明確な改善の兆しが見えたので新品に交換。
同時に、コンデンサーも交換しました。
ポイントギャップは0.45~0.55ミリ。 |
キャップベースのシールリングが破損していたのでこれも交換。G52Bはディストリビューターが水平セットなので、ジープに搭載されていると意外にも作業体勢が厳しい。
整備士は、基本的な作業に手間取るのは恥ずかしいなどという考えは捨てましょう。
ポイント交換とギャップ調整には、手鏡を用意して死角ができないように配慮します。
ポイント交換とギャップ調整には、手鏡を用意して死角ができないように配慮します。
新旧コンデンサー比較。新品は胴体からの足が短く、そのままでは装着できませんでした。これは板金精度の問題なのでステーの角度を調整して装着。
左 : 旧品 右 : 新品 |
新品(奥)は、胴体と穴が近すぎる。 |
スパークプラグ。燃焼温度が低いわりに電極は白い。
最初のテスト走行でキャブ側にバックファイアを起こしていた症状から察するに、オーバーホール時に油面を低めにセットしてあるのではないか?と予想。両電極の消耗具合から、スパークプラグの交換は必要なしと判断、ギャップを調整して再取付け。
ジェットが細かく選べない純正キャブの分解は、先の事情を鑑みて保留。点火系統を回復させ、メーカーがコーションラベルで指定したアイドリングに調整して車検に臨みます。
4輪ドラム式のブレーキは、ケミカル洗浄後にエアブローして摺動部をグリスアップ。
この型のジープはホイールベースが短く重心が高いので、ブレーキ調整は入念に。
ドラムとライニングのペーパー研磨は、調整精度を上げるための措置です。
粒度#180のペーパーでクロスハッチ状に研磨して、表面のデブリを取り除きます。
走り出せばすぐに消えてしまいますが、フリクションが揃うので調整が楽です。
年間走行距離が短いクルマでも、ブレーキ整備を間引くことはできません。
マスターシリンダーのリザーブタンクを見ると、すくなくとも去年はブレーキオイルを変えていなかったことがわかります。ブレーキオイル、クラッチオイルの両方を全量交換。
マスターシリンダーのラバーが劣化してくると、いつまでも糸状の汚れがリザーブタンクに浮いてきます。定期的にオイル交換をすることで、マスターシリンダーやホイールシリンダーの寿命は延ばすことができます。今回は、機能に問題が無いのでマスターシリンダーの交換はせず、新しいオイルを多めに循環させる方法で清掃を兼ねたエア抜きを実施。
エンジン調整は、点火タイミングを三菱指定のBTDC 5°にセットしてアイドル回転数を750rpmに下げた結果、CO 1.3% / HC 55 ppm という、G52Bとしては大変優秀な燃焼を実現することができました。判定レベルはCO 4.5% / HC 1,200 ppm ですから余裕です。
その他にも、バキュームアドバンサやセカンダリーダイヤフラムと同様の損耗が認められたエミッションコントロール関連のホース類を交換し、総じてより高回転までスムースに回せるエンジンになりました。
このクルマのように、純正の状態が良く保たれている場合は格別に。
直線基調の車体は見切りもよく、1.2t の車重は今日としては軽量な部類です。
暑さ寒さを肌で感じながらの運転は、密閉空間で空調完備の運転より、安全かも。
適宜正しい整備を施して、後世に残していきたい一台だと感じました。