フォード ブロンコ XLT レンジャー(第2世代、1979年式)です。
テールゲートの修理で入庫しました。
ブロンコのテールゲート(= バックドア)は、ガラスを格納しないと開かない仕組み。
キーシリンダーでパワーウインドウを操作し、左右ドアと同じようにガラスをドア内に下げ、完全に格納できてはじめて開閉できるように設計されています。
現車は、モーター音はすれどガラスが動かず、ゆえにドアの開閉ができない状態。
早速分解して、ドア内で何が起きたのか診てみましょう。.
入庫時ガラスは上がった状態でしたが、これはオーナーと友人による力技とのこと(笑)。
ガラスを下げないことにはドアが開かないので、ふたたび力技で下げました。
モケットの内張りを外すと、鋼板のアクセスパネルが現れます。
だいぶ錆びて、塗装が膨らんできていますね。
アクセスパネルの下は、油紙のような素材のフィラーが施工されています。
一部ガムテープで留められているのは、以前整備したことがあるという証しでしょう。
しばらく晴天が続いた日に分解したにもかかわらず、多量の水を含んでいます。
雨の日はドア内部が水槽のようになっていたのではないかと推察。
パネルとパネルを、鉄板ビスで留めています。
これはアメ車も、日本車も、欧州車も同じ、70年代に一般的だった構造です。
錆びて回せなくなった鉄板ビスは、頭を削り落としてパネルを分離。
その後ロッキングプライヤーで回して抜きます。
この方法だと、純正と同じサイズの鉄板ビスで組立てることができます。
腐っていた紙のフィラーは、思い切りよく廃棄。
ブチルもテープも、綺麗に除去してしまいます。
ガラスを下げなければドアが開かない一番の理由は、割らないようにするためです。
当然、ドアが開いた状態ではガラスを上げられない仕組みになっています。
・ 左右のロックをドアが閉じた時の位置に固定
・ ドア内中央のロッドをガラスが下がった時の位置に固定
すると、この状態でガラスを上げられます。
現車は、モーター音はすれどガラスはまったく動かない状態。
戸袋に手を入れて、これまた力技で位置を変え、ガラスを取外します。
整備のため特別にガラスを引出した様子。 |
鉄板ビスの頭を削り取って分離したパネル。
スペアタイヤキャリアのキャッチと共締めされているリテーナーを取り外す。
すると、ウインドウレギュレータとパワーウインドウモーターを取り出せます。
レギュレータは単体で動作確認します。
・ ギヤ歯の状態
・ カシメのゆるみ具合
・ 樹脂パーツの摩耗具合
などをチェック。
今回は交換の必要なしと判断し、清掃してグリスアップ。組立に備えます。
鈑金製のレギュレーターからパワーウインドウモーターを取外して分解。
ピニオンギヤは一見正常ですが、内部のウォームギヤが破損しています。
ピニオンは金属歯車、ウォームもドライブ側は金属製です。
ウォームのドリブン側だけ樹脂歯車なのは、万一人間が挟まっても重大事故にならないように、過負荷になると破損するメカニカルヒューズとして機能させるためです。
ギヤだけで部品供給されていますが、今回はモーターとギヤのアッセンブリーで交換。
レギュレターは再使用だし、モーターの消耗具合に配慮すればこの方が安心。
バックドアガラス下の水切りモール。ゴムが劣化して機能していません。
大量の水がドア内に流れ込む主な原因は、これでしょう。
ガラスの内側と外側のモールを、セットで交換します。
袋状になっているドアの底には、水抜きの穴が開いています。
しかし、こんなに大量の異物が詰まっていては水槽になるのも無理ありません。
出せる異物は全部除去、水切りモールの交換で浸入する水の量を大幅に減らし、入った水がすみやかに抜け落ちるように配慮します。
レギュレターは古いグリスとそれに付着した汚れを除去し、一部遊びが大きくなっていたカシメ部を調整、樹脂ローラー軸部の動きを良くして全稼動箇所をグリスアップ。
単体テストの後に組付けます。
モーターの配線はこの状態で供給されます。
純正配線と長さを合わせてハンダ付け、純正と同じ取り回しで固定します。
バックドアガラス用パワーウインドウモーターのギヤ部分。
ウォームギヤのドライブとドリブン、ピニオンギヤの関係が解ります。
油紙のフィラーは廃棄し、新たにビニールシートを切りだしてフィラーを製作。
現代風の素材で密閉して、浮き錆と古い塗膜を除去したアクセスパネルを取付けます。
この前の段階までに、スペアタイヤキャリアの動作確認とキャッチの調整を忘れずに。
モケットのトリムを付けたら、完成です。 |
この2代目ブロンコは、F-100トラックのシャシーをもとに開発されたフルサイズSUV。
競合他車からのシェア奪還を期待された野心作でしたが、オイルショックの影響で勝機を逸し、1978年から1979年までの2年間生産されただけで世代交代となりました。
今の道路を走らせると、低回転で充分なトルクを発揮するV8エンジンと3速オートマチックミッションの組み合わせがとてもスムーズで、乗り手を穏やかな気持ちにしてくれます。
今回整備したテールゲートのパワーウインドウには、モーター交換のみならず周辺環境の改善も盛り込みました。故障再発の可能性が遠のいたことは、確実です。
2代目(1978年-1979年) フォード・ブロンコ |
おまけの画像は、フォードF-100トラックのTVコマーシャル(1978年)。
CGで加飾された今日のCMよりインパクトが大きいと思うのですが、いかがでしょうか!