埼玉県狭山市の自動車整備工場、FTECコーポレーションが、主に特殊整備にカテゴライズされる業務内容を紹介するブログです。

パジェロエボリューションのエンジン整備 3/3

三菱パジェロエボリューションのエンジン整備、前回の続きです。
タイミングベルトまわりの広範な修理を経て再始動させるまでを纏めます。


再使用する部品は、組付けにふさわしい状態に整えること。整えた部品は、ホースバンドやハーネスクランプの向きや角度に至るまで元通りに組付けること。

いつか再び整備される時には今回の出来が基準になるということを心に刻んで組立作業にあたります。

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付帯作業で取外した補機のマウント類。
洗浄して応力のかかる部分を点検、簡単な防錆黒塗装を施します。

嵌合面の平滑度は補器とエンジンの平衡度を左右するので、ボルト穴まわりの状態をよく確認することが肝要です。





金属製のステーやブラケット、カバー類には、組み立ての基準となる情報が刻みつけられています。複数のボルト穴を取付面に正確にフィットさせることや、ボルト穴の遊びをどの方向に詰めるかなどは、面接触の痕跡が重要な指標になります。



表面に残る痕跡が組立ての指標になることは、アクセサリーマウントも同じです。
取付ボルトの数が多いうえにオフセットしているので、嵌合面が完全に平滑であることを確認したうえでブロック側に吸い付くようにフィットさせないと角度に狂いが生じます。


新旧クランクプーリーボルトとワッシャーの比較。
左が新車時のもの、右が緩み対策品です。
ボルトの全長は短く、ワッシャーは厚くなっています。

左:対策前 右:対策後

左:対策前 右:対策後

タイミングベルトを異物から守るためのカバーを取付けます。
ラバーパッキンは全て交換し、タイミングベルトの作動域を可能な限り密閉します。





取付けの際には、リップシールが正確にフィットするよう修正する必要があります。
仮止めしたボルトを全数1回転半戻してピックツールを使うと正しい状態にできます。

内側に倒れたリップを正しい状態に整える

作業域全体を俯瞰して工程を反芻し、ひとかけらの懸念も無ければ次の工程へ。


アクセサリーマウントをフィットさせ、クランクプーリーを取付けます。
使用するボルトとワッシャーは、もちろん緩み対策品です。



クーラーコンプレッサーのマウント。アクセサリーマウントと同様に、オフセットされた取付面がすべてブロックに吸い付くようにフィットすることを確認して取付けます。

複数のアースケーブルが集中して締め込まれる箇所では、表面の痕跡から取付順序と角度を読み取って元通りに組付けることを心掛けます。



エンジン補機類ドライブベルトは全て新品に交換。
テンションローラーやアイドルローラーもすべて新品に交換。
テンショナーのブラケットやアジャスト機構は点検清掃のうえ再使用。



腐食していないボルトは磨いて点検し、瑕疵がなければ再使用するのがFTECの流儀です。

巨大な繰返し応力が掛かる場所に使われていたり、取外した時点で既に塑性変形しているボルトは、同じように点検してから結果に関わらず交換するのが筋だと心得ています。




ラジエターも再使用します。ラジエターホースを締付けるウォーターネック部はサンディングパッドで平滑に均します。



補機類のドライブベルト3本の張り具合を調整。
ファンシュラウドを組付ければリキッド類のサービスに着手できます。




上下ラジエターホースの交換。
ホースバンドの向き、位置、角度を、古い部品の痕跡から読み取ります



バッテリーのブラケットもついでに洗浄。
性能に直接関係がなくても、表面の痕跡から読み取れることはあります。
綺麗な方が気分がいい、という効能も当然ありますね。


3つのテンションローラーのセンターボルトを締めたら、エンジンの組立ては完了です。


L.L.C.を給水。エア抜きをしてエンジンを始動し、完全暖気後にリザーブタンクの水量を調整。暖機によって柔らかくなったところで、古いエンジンオイルを排出



今回使用するエンジンオイルは、WAKO'S 4CT-S 5W-40。
ACEA A3/B3とA3/B4、C3規格に適合するマルチグレードオイルです。


冷間始動から完全暖気までを何度か繰り返してリザーブタンクの水量を調整。
冷却水路に気泡が無くなった頃合いを見て、キャップテスターで圧力をかけます


リリーフ圧力の90%まで水圧を上げて、冷却水漏れの有無を確認します。


計3回の記事にわたる、パジェロエボリューションのエンジン整備は以上です。

正確なバルブタイミングを取り戻したことに加え、アクチュエータのロッド破損で半開きになっていたプレナムチャンバーのバルブが正確に開閉するようになり、オーナーからは

「中速トルクが増してトップエンドへのつながりが良くなった」

という評価をいただきました。




今回整備した6G74MIVECが、生来の性能である

・206kw (280ps)/6,500rpm 
・348.1N·m (35.5kg·m.)/3,000rpm

を存分に発揮して、末永くオーナーの期待に応えつづけることを、心から願います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


▲ この整備をまとめた動画(2:30)