埼玉県狭山市の自動車整備工場、FTECコーポレーションが、主に特殊整備にカテゴライズされる業務内容を紹介するブログです。

パジェロエボリューションのエンジン整備 2/3

三菱パジェロエボリューションのエンジン整備です。
点検の結果、手当てが必要と判明した箇所を修理します。


この整備は、タイミングベルトとウォーターポンプの交換を含む内容で計画されています。付帯作業として分解した箇所は、すべて組立てに相応しいコンディションに整えましょう。

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分解時に折れこんだボルトの先端を抜き取ります。

6G74型はアルミ製アクセサリーマウントと鋳鉄製エンジンブロックの間にサーモスタットケースを挟み込む構造をしており、折損したボルトはこれらを貫通して締め付けるものです。


折れ込んでエンジン側に残っているボルトの先端を鏡で確認。


端面中央にポンチを打ち、サーモスタットケースの貫通穴を利用してドリルアウト。


深く削孔しすぎないように、雄ネジの長さと同じ位置にマスキングテープを巻きます。


ドリルの先端が通じた手ごたえを感じたら、この工程は完了。


この状態になれば、薄肉のサーモスタットケースを傷めずに前方へ引出せます。


サーモスタットケースを安全に取外したら、残存していたボルトを抜き取ります。


ブロック側の雌ネジは全てタップ掛けして整えます。


ボルトは規定トルクで締め付けることが大事なのではなく、規定のテンションがかかることが大事なのですから、交換するしないに関わらず雌ネジの修正は必要です。


サーモスタットケース、ウォーターポンプ、アクセサリーマウントの取付けに使う雌ネジの修正が完了。この機械仕上面は、冷却水の密封と全ベルトラインの平衡度に関わります

雌ネジの修正後にセラミックチップのスクレーパーで平滑に均します。



ロッドが折れたアクチュエータは、現品を修理します。

アクチュエータ本体のダイヤフラムは健全であり、同じ構造の新品に交換しても再び折損する可能性が高いと予測できるからです。


折れた先端はインマニ側のレバーに完全な状態で残っていました。
双方の断面を確認した後に清掃して仮合わせ。




ダイヤフラム側の過熱を避けるためにヒートシンクを取付けて低電流でTIG溶接。


このあと肉盛りをして曲げ部の断面積を増やしました。


このアクチュエータは、壊れてもエンジンの出力が減るだけです。明確な不調が現れたりチェックエンジンライトが点灯したりすることはありません。

今回壊れたのはサーモスタットケースが組まれた状態では目視できない部分なので、発見して修理できたのは幸運だったと言えるかもしれませんね。


錆びや不純物が堆積したウォーターラインのニップル。
ワイヤーブラシとサンディングパッドで清掃。
これも、長期間にわたり冷却水漏れを防ぐためには不可欠の処理です。




ウォーターポンプとサーモスタットケース後部のパイプジョイント部は、大小2本のOリングでシールされています。全Oリングの接触面4か所をサンディングパッドで清掃して交換。






クランクシャフトの前オイルシールも交換します。
シャフト前端の浮錆を落とし、傷などがないことを確認。




機械式のタイミングベルトテンショナー。
単体テストの結果は良好、清掃と塗装を施して再使用します。

清掃前

清掃後

貫通穴にピンを通して位置決めします

新旧ウォーターポンプを比較。
新しい部品は、ベーンが板金細工からダイキャストに替わっています。




スタッドボルトの植え込み。新旧で同寸法になることを確認。





新品ウォーターポンプを装着。その上方にサーモスタットケースを組付けていきます。





カムシャフト前側のオイルシールを全数交換。









綺麗に整えた部品を組付けていくのは心躍る工程です。新品に交換した部品がエンジン全体によく馴染むように、ひとつひとつのボルトやナットを慎重に締付けます。

何かおかしいと感じたら手を止めて全体に目配りをする。そういう緊張感をもって機械と対峙することが確実な整備につながるとFTECは信じています。


タイミングベルトは、水や油の付着で痛む部品です。塵や埃が堆積すれば、それらが吸着する水や油によって、タイミングベルトの寿命が縮みます。

カバーのパッキンは全て交換し、可能な限りタイミングベルトが清潔な空間で作動するよう配慮することで、所定のエンジン性能を長続きさせることができます。








タイミングベルトのテンションローラーを支持するスイングアーム。
点検と清掃の後で、防錆黒塗装で仕上げます。





タイミングベルト機構のアイドルローラー。
カラーの取付面は平衡度に関わるのでエンジンブロック側ともども綺麗に清掃。
大気中に露出する部分には防錆黒塗装を施しました。





タイミングベルト機構のテンショナーとローラー。
まずSSTで規定のテンションをかけてローラーを締付け、最終的に機械式テンショナーの突出し量が規定値4.8~5.5mmに納まるように調整します。









DOHCの両バンクを、長いタイミングベルト1本で連結駆動する6G74。

テンショナーのセット不良はカムタイミングのずれを意味するので、もしもこの工程を蔑ろにすれば、MIVECの機能は文字通り台無しになってしまいます。

自動車の整備に意味のない作業などひとつもないのですが、各工程の意味を理解して作業にあたることによって、全体の品質を一層高めることができるとFTECは信じています。



正確なカムタイミングの効果を、体感するのが楽しみになってきました。
次回は、組立ての続きからエンジン始動までを記事にします。




蛇足ながら、三菱自動車の栄光の伝承を、支援するつもりでリンクを張ります。





走行距離1万キロ超の世界一過酷なラリーレイドにおける、1-2-3-4フィニッシュ。

歴史的偉業を正しく後世に伝えるのは、過去の栄光にすがるのとは根本的に違う、有意義なことだとFTECは思うのですが、いかがでしょうか。