トヨタ2000GTのエンジン冷却系統の修理。
前回策定した修理方針に則り、既存の補器類を変更します。
変更の要点は、
1. エンジンオイルクーラーの見直し
1.-1 オイルクーラーAss'yの変更
1.-2 ホース及びフィッティングの変更
1.-3 ホース経路の変更
2. ラジエターの仕様変更
2.-1 上下タンクの修正
2.-2 コアを3層から2層に変更
3. 電動ファンコントロールの見直し
3.-1 ラジエター後方に電動ファンを新設
3.-2 温度センサーを新設して純正電動ファンと協調
です。車体側には手を加えず、低速時にオーバーヒート気味になる問題を解決します。
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まず、エンジン冷却水とエンジンオイルを排出しましょう。
ラジエターはドレンコックを破損する恐れが認められたため、ロアホースから排出します。
ウォーターポンプ出口側のホースネック。腐食で虫食い状態になった表面に、シリコンシーラントが塗られています。この処置自体に間違いはありませんが、一度ホースを分離したら必ず金属面が出るまで表面を磨いてシーラントを再施工することが肝心です。
サーモスタットケース。エンジン冷却水の温度制御を修理するのだから、ここを確認するのは当然のことです。パッキンは欠品製廃で、流用に関する情報も曖昧なので製作します。
サーモスタット側のウォーターネック。ここにはシリコンシーラントは塗られていません。腐食部分を磨いて再使用します。
続いて、エンジンオイルを排出。
タイラップであちこちに留められた、オイルクーラーの配管を解いていきます。
メッシュホースは2000年以降の商品で、ラバーホースと同じホースバンドで締付けた上に、飾りのカバーが着いています。
配管の途中に設けられたドレンコック。整備士によって考え方が違うので軽々に良否の判定はできませんが、FTECは簡素な構造の方が良いと考えます。
エンジンとの接続部から取外したフィッティング。真鍮製のフィッティングは英国のBSPP規格で、ねじピッチはインチあたり14山。接着剤のようなシール剤で固められています。
アルミ製のフィッティングは、日本のPF規格や米国のNPS規格と同じテーパーシール。2ピース構造なので、現代の目線では液漏れに対して不利な構造に見えます。
洗浄、清掃、研磨して、古い部品の状態を確認。
エンジン側のフィッティング接続部。雌ねじを清掃して嵌合面を確認することによって、つまらないトラブルを退けることができます。
新しいオイルクーラーは、古いオイルクーラーと同じ場所に、車体側には一切手を加えずボルトオンできるように設計します。配管には日本の規格に合ったラバーホースを使い、極力短く簡素な取り回しに変更します。
新しいオイルクーラーは熱交換率が高いので、前面投影面積が小さくなっても油温が上がることはありません。メッキグリル奥の3つの熱交換器の中では一番前方の温度の低い走行風の当たる場所に設置できるので、前面投影面積が減少する分のリソースはそのまま他の熱交換器の効率を上げることに使えます。
オイルクーラーの固定方法にはいくつかの定石があるのですが、今回はオールステンレスで製作して塗装をしないことと、要所に袋ナットを使うことに留意しました。これは、トヨタ2000GTの中でも現車だけが持つ特徴に敬意を表したかったからです。
オイルクーラーAss'yは、コアの上部に空気層を残さないことに配慮して、上向きに排出する配置にします。
純正位置の電動ファンは、オーナーの希望で温存します。現車のダッシュボードロアパネルには、この電動ファンを手動でON/OFFできるスイッチが備わっています。
オイルクーラーIN/OUTのラバーホースと冷房の配管。クランプの方法を変更して、スタビライザーとの間隔を確保します。
ウォーターポンプ側のホースネック。古いシリコンシーラントを除去して表面を研磨、新しいホースの装着に備えます。
不具合箇所が多数あったラジエターは、上下タンクを修理してキャップの口金やドレンコックを交換し、コアを2層に減らして圧力テストを実施しました。ご協力いただいた入間ラジエーターの皆様に、感謝申し上げます。
トヨグライド用のATFクーラーを、ロアタンクから取除く措置も施しました。
簡素化して効率も上がるとあれば、躊躇なく採用するのがFTECのやり方です。
簡素化して効率も上がるとあれば、躊躇なく採用するのがFTECのやり方です。
2層化によって生まれたスペースに、薄型の電動ファンを新設します。
吸出し式のファンをコアに密着させることで、通風を強制することができます。現車の場合は純正品の電動ファンと中心軸をずらすことによって、更なる効率の向上が望めます。
吸出し式のファンをコアに密着させることで、通風を強制することができます。現車の場合は純正品の電動ファンと中心軸をずらすことによって、更なる効率の向上が望めます。
ラジエターと新設した電動ファンを組合わせて車体に搭載。
車体側には一切手を加えず、ボルトオンできます。
サーモスタットも流用情報が曖昧だったので、作動テストで正常を確認して再使用。
サーモスタットケースのホースネック。全面を清掃してシリコンシーラントを除去、勘合面の平滑度を確認します。
スタンプ台と円定規、ポンチとカッターを使って、ガスケットシートを切出します。
サーモスタットケース側のホースネックは腐食による巣穴が大きく、シーラントを併用しても液漏れを起こす懸念があったため、面で絞められるホースバンドを使用しています。
新しいエンジンオイルとエンジン冷却水を注いで、エンジンを再始動。トヨタ2000GTのラジエターにリザーブタンクは無く、オーバーフローは開放式。液量は慎重に調整します。
完全暖機して冷却水路に圧力をかけ、エンジン回転数を上げて油圧を上げます。
漏れがないことを確認して汚濁箇所を洗浄したら、整備完了です。
オイルクーラーのステーを製作するにあたり敬意を表したかったのは、このアンダーカウルです。オールステンレスでワンオフ製作されており、機能面でも申し分ない形状。しかも、トヨタ2000GTのディティールと良く調和して、現車を特徴づけるアイコンになっています。
新設した薄型電動ファンのON/OFFには、熱電対を使った専用リレーを利用します。純正電動ファンと同じタイミングで発動しないように、別々の場所にセンサーを取付けて異なる温度で発動するように調整します。
トヨタ2000GTの、冷却系統を修理する記事は以上です。
真夏にエンジン全開で走り回り、停車してすぐに冷房をつけたら、3つの電動ファンが全部回ることもあるかもしれません。オーナーがそういう乗り方をするかどうかは別にして、
「そのとき何が起きるか、何ができるか」
を、先回りして考えておく義務が自動車整備士にはあると、FTECは信じます。
この美しいクルマが、100年後も健全でありますように。