スズキ セルボ SS40型(1985年式)です。
ブレーキング時の車体振動を修理するために入庫しました。具体的な症状は、60km/h以上からブレーキペダルを弱く踏むとハンドルがぶれて車体が振動する、というものです。
走行距離は91,000㎞。36年分の累積としては異例の少なさです。
改造もほとんどなく、無理な乗り方をされた様子もありません。
まずはプライマリーチェックで、全身状態を把握しましょう。
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SS40型セルボに搭載されるエンジンは、直列3気筒OHC12バルブのF5A型(550cc)。
現車はこれに4速マニュアルトランスミッションを組合わせた仕様です。
現車はこれに4速マニュアルトランスミッションを組合わせた仕様です。
ブレーキ操作に連動した症状なので、ブレーキの分解整備は当然です。
入庫以前にオーナーから頂いた報告で、液漏れがあることは分かっていました。
しかし現車の車体振動は重症で、ブレーキだけが原因とは考えられない状態。
最初にハブベアリングの遊び量、次いでボールジョイントという具合に、末端から中心に向けて点検を進めることが肝要です。
最初にハブベアリングの遊び量、次いでボールジョイントという具合に、末端から中心に向けて点検を進めることが肝要です。
CVジョイントは、タイヤの位置に関わらずスムーズです。現車のブレーキは4輪ドラム式なので、ハブベアリングの遊び量が増えるとドラムとライニングの間隔を詰められなくなることにも留意しましょう。
前方から下周りを覗くと、サスペンション設計の特徴が理解できます。
ストラット式ですが、スタビライザーをテンションロッドとして利用しています。
スタビライザー末端をロアアームにブッシュを介して結合し、テンションロッドとして機能させる設計。その末端に、前方からの打痕が見受けられます。
下の写真では、円盤形であるはずの部品が後方にめくれているのが見えますね。
ロアアームの先をぶつけたのなら、根元にもダメージがないか調べましょう。
何か、詰め物がしてあるようです。
ロアアームと前メンバーの結合部に、石綿のような硬さの詰め物が押し込んでありました。取り除いて内部を確認しましたが、理由は見当たりません。
ストラットアッパーマウントには、ショックアブソーバーの突き上げによる経年変化で亀裂が入っています。これは今回の症状と密接な関りがあるので、交換が必須と判断します。
新旧アッパーマウントの比較。
全周に亀裂が入り、中央の金具が上方にせり出しているのが分かります。
全周に亀裂が入り、中央の金具が上方にせり出しているのが分かります。
ナットとワッシャーを清掃して点検します。
ストラットアッパーのベアリング。
清掃して点検し、グリスを入れ替えて再使用。
清掃して点検し、グリスを入れ替えて再使用。
滑らかに動くべきところに異常なフリクションを残さない。
そうすることで、故障原因を見落とすリスクを遠ざけることができます。
そうすることで、故障原因を見落とすリスクを遠ざけることができます。
だいぶ前置きが長くなりましたが、ブレーキの整備を始めましょう。
前述の液漏れは、ホイールシリンダーから生じています。
新品は欠品製廃ということもあり、長年ドラムの内側に漏れていたのでしょう。
ドラムの摺動面は腐食が進んで、いわゆる虫食い状態になっています。
ライニングには漏れたフルードがしみ込んで、表面が濡れています。
現車のブレーキドラムは過去に修正研磨されており、薄い方の1枚は内径の限界に達しています。交換が望ましいのですが、新品は既に欠品製廃でスズキからは買えません。
車体振動は複合要素によって増幅されるので、一点に集中して視野狭窄に陥ると解決の鍵を見失います。常に現車に触れているオーナーの話をよく聞いて咀嚼し、状況を俯瞰して診断にあたることが、自動車整備士に託された任務であると、FTECは考えています。
次回の記事では、ブレーキの整備と車体振動の修理の、詳細な内容をお伝えします。