埼玉県狭山市の自動車整備工場、FTECコーポレーションが、主に特殊整備にカテゴライズされる業務内容を紹介するブログです。

メルセデスのエアコン修理

メルセデスベンツE280(W124)です。
クライメートコントロール(エアコンシステム)の作動不良で入庫しました。


走行中に突然、冷風が出なくなったとのこと。しかし、プライマリーチェックではアイドリング時の正常作動が確認できます。走ると冷えない、という症状から原因究明の糸口を探します。

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まず、関与が疑われる箇所を、クライメートコントロールの系統別に整理します。

・クーラーライン内の冷媒量
・ロープレッシャースイッチ
・コンプレッサー
・コンデンサー、エバポレータを含むクーラーライン
・ハイプレッシャースイッチ(アディショナルファンスイッチ)
・クリマーコントロールモジュール

次に、マニフォールドゲージを接続してクーラーラインの圧力分布を測定します。
冷風が出ている間は、当然ですが何の怪異も見られません。


ひきつづき、環境温度30℃超で15分間程度、1,500~2,000rpm を維持して症状の再現を試みると、コンプレッサーのクラッチに作動不良が現れました。
マグネットクラッチに作動電源が供給されていません。



故障発生時のロープレッシャースイッチを調べると、抵抗値は正常です。また、ロープレッシャースイッチの車体側配線をテストリードで短絡させても、症状に変化はありません。

次に、クリマーコントロールモジュールを取り外し、車体側ソケットを調べます。
各ターミナルの入出力信号に、異常値は認められません。

以上の結果を踏まえ、1.5sqの配線に15Aのブレーカーを接続したテストリードを作製し、クリマーモジュールソケットのターミナル15と87に接続します。すると、マグネットクラッチの電源供給が回復し、それ以降勝手に動作をやめることがなくなりました。


ここまでの作業で、マグネットクラッチの供給電源が、クリマーコントロールモジュールで途絶えていることが明らかになりました。

この部品を交換する前に、最終工程として

「クリマーコントロールモジュールが電源を断つ理由が無いこと」

を確認する作業が必要です。

・フルロードコンタクトスイッチからキックダウン信号が供給されている
・コンプレッサーのスピードシグナルから回転信号が供給されていない

これらの条件のもとでは、コンプレッサーの作動電源は断絶していなければなりません。


作動条件確認の結果、故障原因と特定されたクリマー/キックダウンモジュール。
部品待ちの余興に、ケースを分解してみました。





003 545 56 05

モジュールをKAEHLERのOEM品に交換し、作動テストと走行テストを実施します。
その結果、事前に把握したすべての故障について、完治を確認できました。


最後に、マニフォールドゲージ接続によってわずかに失われたクーラーガスを補充填。
ダッシュボード中央の吹き出し口にプローブをセットし、冷風の温度を確認しました。
外気温32℃で9℃の風が出ていれば、充分な能力と言って差し支えないと思います。



W124系のEクラスは、生産時期が好景気と重複したこともあって、日本で非常に多くの支持を得たことで知られています。

見切りの良さと取り回しのしやすさが、日本の道路交通事情に合致したのでしょう。
生来の素性の良さを際立たせるような、正しい整備を施すことを心掛けたいものです。